旅客機は着陸時、接地直後にエンジンのカバーを開け、進行方向とは違った向きに空気を噴き出す、いわゆる「逆噴射」を行います。ただ近年は、これを控えめにする場面もあるとのこと。

詳細をANAのパイロットに聞きました。

着陸後の大きな音の正体「逆噴射」

 旅客機は着陸時、接地した直後に「エンジンをふかす」ような大きな音を立てて減速します。

 ANA(全日空)のパイロットによると、着陸後の制動はスポイラー、タイヤのブレーキ、機体そのものの抵抗、そしてエンジンの逆噴射装置が大きな効果をもつとのこと。この逆噴射装置が、いわゆる先述の「大きな音」の正体です。

着陸時のエンジンパカッ「逆噴射」 実は控えめモードも存在! ...の画像はこちら >>

着陸後、エンジンカバーを開いて減速するANA機(乗りものニュース編集部撮影)。

 現代のジェット旅客機の多くでは、「逆噴射」を実施する際、エンジンのカバーが真ん中付近でぱっくり「割れる」ように開きます。

 通常ジェットエンジンは、前から取り込んだ空気を後ろに噴射し推力を得ますが、逆噴射のときは、後ろに噴射する気流がほぼすべてせき止められ、その空気がエンジンの「割れ目」から吹き出ます。このことで進行方向と反対側の力が機体に加わり、機体のスピードを落とします。つまり、通常とは違った向きにエンジンをふかして減速するイメージです。

 この「逆噴射」による減速は大きな効果を発揮しますが、ANAのパイロットによると、近年は、あえてこの逆噴射推力を小さくとどめる「リバースアイドル」で減速を図るケースもあるようです。

どんなときでなぜ? ポイントは?「リバースアイドル」あれこれ

 先述のパイロットによると、必要滑走路長に余裕があり天候も良い場合などでは、逆噴射装置の使用をアイドル(出力を小さくする)状態に留める「リバースアイドル」で着陸時の減速を図るケースが多いのだとか。これは、おもに燃料の消費量を抑えるためといいます。

このほか、二酸化炭素の排出を削減したり、騒音を抑えたりする効果も期待できます。

 とはいえ、この「リバースアイドル」は、先述の条件が整ったからといって即座に実施できる、というわけでもないようです。

「リバースアイドルにすると、タイヤのブレーキにかかる負担が増えるため、着陸後のブレーキ温度が通常、逆噴射装置を使用した時よりも上昇します。ブレーキ温度が下がるにはある程度の時間が必要なので、その飛行機があまり時間をおかずに次の便として出発するようなケースでは、気温が高い日などはブレーキが十分に冷えきらずに出発することになってしまいます。そのため、とくに暑い日にリバースアイドルをする際には、次便までの時間やブレーキにかかる負荷に関係する機体重量、滑走路を離脱する誘導路までの距離に対応した自動ブレーキのセッティング(強いブレーキほど温度が上がる)といった点を、総合的に考慮して判断する、といったことが必要になるのです」(ANAのパイロット)

 なお、ブレーキ温度が高いまま出発すると、万が一離陸滑走中にトラブル発生、離陸を中止……となった際にタイヤがバーストする可能性などもあるとのこと。

 着陸後の減速ひとつとっても、万一の際を考慮して先読みする安全性への高い意識と、経済性を両立させる、現役パイロットならではのテクニックがありました。

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