ついに自衛隊からも退役したオリジナル・エンジン搭載の「YS-11」。このモデルが国産旅客機として開発されたあと、実現こそしなかったものの、日本では、YS-11JやYS-33といった新型機プランが出ましたが、その間の「YS-22」はなかったのでしょうか。

正式名称は「ワイ・エス・イチ・イチ」

 令和2年度、つまり2021年3月をもって、航空自衛隊が保有する飛行点検機、YS-11FC(FCはフライトチェッカーの略)が退役します。2021年現在、第2次世界大戦後に量産された唯一の国産旅客機「YS-11」で、同モデルの最大の特徴のひとつである、ロールズ・ロイス製ダート・エンジンを装備した純粋な機体としては、これが最後となります。

幻のYS-11後継モデル「YS-33」 では「YS-22」は...の画像はこちら >>

入間基地の滑走路を離陸するYS-11FC(2020年9月、柘植優介撮影)。

 YS-11は、一般的には「ワイエスジュウイチ」と呼称されることもあるものの、本来は「ワイ・エス・イチ・イチ」と呼ぶのが正式です。

 モデル名の由来は、YS-11の開発を進めるために組織された、当時の輸送機設計研究協会です。「YS」は同協会のローマ字である「“Y”USOUKI-“S”EKKEI-KENNKYU-KYOUKAI」に由来し、「11」は、機体の設計第“1”案、エンジン選定第“1”案からとられています。

 ただ、1958(昭和33)年に、機体の原寸大模型(モックアップ)公開の際、当時の工場があった横浜市新杉田にちなみ、「横浜・杉田で11日に会いましょう」という語呂合わせのキャッチコピーが広められたことから、これにより「ジュウイチ」読みの方が広まってしまった、というハナシも。

 その後、輸送機設計研究協会の後継組織にあたる日航製(特殊法人日本航空機製造)が、YS-11の実際の設計、製作にあたり、1962(昭和37)年に初飛行にこぎつけ、デビューしました。

 日航製はYS-11を足掛かりに、国産の新型機を次々とデビューさせようと、すぐさまいくつものプランを練っています。

YS-「11」「11J」「33」…「22」はどこへ?

 日航製が企画した代表的なものとしては、実現こそしなかったもののYS-11をジェット化したYS-11J、3発ジェット機のYS-33などがあります。ただここで疑問なのは、なぜYS-11の次が「YS-33」なのか、という点です。つまり、「YS-22」という型式を飛ばすような形がとられているのです。

 これは筆者(種山雅夫:元航空科学博物館展示部長・学芸員)の推測になるものの、そこを埋めるのは自衛隊機ではないかと考えます。実は航空自衛隊のC-1輸送機が、YS-11と似た布陣で作られているからです。

 1970(昭和45)年に初飛行したC-1は、実はあまり知られていませんが、設計・開発を担ったのは日航製で、製造が川崎重工業でした。

 アメリカ機を例にとると、1998(平成10)年初飛行のボーイング717というモデル名が、かつてのダグラスDC-9の発展版に名付けられるはるか昔、空中給油機KC-135A「ストラトタンカー」の仮モデル名であったように、C-1が計画された際、社内名称などでひそかに「YS-22」が用いられていた、という可能性もゼロではないはずです。

「YS-22」=「C-1」かも… その理由は?

 そもそも、YS-11Jで検討された、ターボプロップ機をエンジン換装によりジェット機に発展させる案を実現するのは、至難のワザです。

 まずは、推力が増え速度も上がることから主翼の補強が必要ですし、運用高度が高くなることから与圧装置の増強も必要です。燃料消費量も異なるので、航続距離を改善するためには燃料タンクを変更せねばなりません。つまり、そっくりそのままエンジンだけ変えるYS-11Jでは、結局抜本的な改修が必要となることから、新たな機体の開発にシフトすることは自然な流れだと思います。

幻のYS-11後継モデル「YS-33」 では「YS-22」は?  昭和国産旅客機開発事情を考える

航空自衛隊入間基地に所在する第402飛行隊のC-1輸送機(柘植優介撮影)。

 また、YS-33の案が出てきた時期は、のちのC-1となる「C-X」の計画が軌道に乗ったあとの1968(昭和43)年ごろからなので、年代的にも合致します。少し横道にそれますが、C-1をベースに旅客機を開発すれば、実現性があったような気もするのですが、推察するに、そこにはいろいろな思惑が渦巻いているのでしょう。

 ここまで想像も含め話を進めてしまいましたが、結局のところその事実は、冒頭でYS-11が唯一の量産国産旅客機であったと述べたとおり、「YS-33」も実現せずに終わってしまったため、もはや仮定の世界のハナシ、ということです。

 時代は下り、「ダート」エンジンを積んだYS-11も幕引きを迎えます。何ともいえないあの甲高いエンジン音が聞けなくなるのは、さみしいものです。

【レトロの極み】動画でがっつり解剖 YS-11FC
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