2020年の暮れ。防衛省公式YouTubeチャンネルに、突如50本もの記録映像がアップされました。

その名も「防衛庁記録」シリーズ。1957(昭和32)年から防衛省移行までの活動を収めた貴重な動画がアップされた背景を、担当者に聞いてみました。

レア映像の「防衛庁記録」話題になった全50本一挙公開

 防衛省が2008(平成20)年9月から運用している公式YouTubeチャンネル「modchannel」。登録者数は2021年3月末現在で4.88万人と、陸海空各自衛隊のチャンネルと比べると少ないものの、防衛省・自衛隊の活動報告や装備品紹介が定期的にアップされており、見入ってしまうようなものもあります。

 そんな「modchannel」に、2020年12月、突如として合計50本もの動画が一斉にアップされました。その名も「防衛庁記録」。1957(昭和32)年、自衛隊が発足してまだ3年の時期のものから、防衛庁が防衛省に昇格する直前の2006(平成18)年まで、貴重な記録映像が各年ごとにインターネット上にあげられました。

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1959年に航空自衛隊が採用し、1986年まで日本の空を飛び続けたF-104J戦闘機。「防衛庁記録」にもたびたび登場する(画像:航空自衛隊)。

 これについては、公開直後からTwitterを始めとした各種SNSで話題になったほか、いくつかのメディアでもニュースとして報じたため、動画の存在をご存知の読者も多いでしょう。

 そこで今回、「防衛庁記録」の公開担当者に直接、話を聞いてきました。

総再生時間23時間 繰り返しチェックし目次を作成

 対応してくれたのは、防衛省大臣官房広報課総括班の高塚雄一(高ははしご高)3等空佐(取材時)。

話によると「『防衛庁記録』は、1年間の活動を後世に残すために作られた記録映像です。各部隊、行事で撮影された映像をまとめて1本の作品としたものですが、当時、出来上がった映像がどのように上映、放映されたかはわかっていません」とのこと。

 高塚3佐によると、今回公開された記録映像は、広報課の使う資料倉庫に眠っていたもの。発見後、広く公開するため、利用しやすいデジタルデータに変換することになったといいます。

お宝映像が満載! 防衛省YouTube「防衛庁記録」一挙50本公開ナゼ 2か月格闘した担当の思い

取材に応じてくれた高塚雄一3等空佐は、航空学生56期出身。もともとC-130H輸送機のナビゲーターを務めるなどしていた「空飛ぶ広報マン」(臼井総理撮影)。

「ニュースを聞かれた方は、古びた8mmテープが今でも山のようにある様子を想像されるかもしれません。これらの映像資料のうち、古いものについては30年ほど前に当時の担当が、一度8mmテープなどのオリジナルの媒体からD2やU-Maticといった業務用媒体に一度変換してくれていました。おかげで、当時の映像が非常に良い状態で保存されていました。」(高塚3佐)

 今回はそれを業者に委託し、デジタルデータに変換。高塚3佐がすべての映像をチェックし、YouTube公開に向けた作業を行ったそうです。

 具体的には、動画の内容を観ながら記録。当時のニュースなどの記録と照合しながら出来事の背景などを調べ、YouTubeのチャプター機能を利用して目次を付けるなど、細かい作業の連続だったといいます。

「50本、合計約23時間もの映像を繰り返し確認するのは大変でした。当初は、SNSで投稿できるよう短いものに作り替えることも考えましたが、防衛庁記録は、それぞれが1本の作品として完結していることを重んじ、そのままアップしました。ただ、長い動画は見てもらい難いですし、SNS等で気に入った場面をシェアしてもらえるよう、すべての動画に、内容を示した目次を付けました」(高塚3佐)

担当者オススメのシーンは? 自衛隊史のマイルストーンばかり

 2か月あまりの格闘で、ようやくチェックが完了した「防衛庁記録」。公開も五月雨式ではなく、休んでいる人が多い年末年始にまとめて実施することにしたそうです。

「せっかくなので、多くの方に観ていただきたいですからね。ただ、アップ順ではなく、YouTubeで処理が完了した順に公開されてしまうのを失念していました。順序を整えた公開リストを用意しましたので、ぜひ使ってください」(高塚3佐)

お宝映像が満載! 防衛省YouTube「防衛庁記録」一挙50本公開ナゼ 2か月格闘した担当の思い

自衛隊発足後初の観艦式で、岸総理大臣(当時)が乗った警備艦「ゆきかぜ」(出典:modchannel「昭和32年防衛庁記録」)。

 そこで、全映像をすみずみまでチェックした高塚3佐に、オススメのシーンを聞いてみました。

「私は航空自衛官ですので、空自の装備に関する映像がオススメです。XC-1試作1号機の初飛行(昭和45年)や、F-4EJファントムの配備開始(昭和46年)などですね。驚いたのは、昭和34年。当時の源田 実航空幕僚長が渡米して、次期戦闘機の調査をしているのですが、幕僚長自らF-5戦闘機に搭乗、操縦しています。

貴重なシーンですが、今では考えられないことです。時代だなあ、と思ったものは他にもあって、河原で戦闘訓練をしている場面などには驚きました」(高塚3佐)

 ほかにも、1972(昭和47)年の沖縄返還に際して行われた、海自輸送艦による現金540億円の輸送や、今年行われる予定の東京オリンピックにちなみ、前回1964(昭和39)年の東京オリンピック支援など、興味深いシーンを多数挙げてくれました。

 ちなみに、取材時点でもっとも再生数の多い動画は平成4年(約15万回)。なぜなのか質問してみました。

「自動生成されたサムネイル(トップ画像)が、女性自衛官PRのCM部分になっていたからかも知れません。コメントでは『自衛隊もサムネで釣るのか』と言われてしまいましたが、自動生成なので、ご了承ください(笑)」(高塚3佐)

 最後、高塚3佐に今回の「防衛庁記録」公開を踏まえて思いを語ってもらいました。

「担当者として、いろいろな思いを込めて公開しました。歴史的映像を通して、広く防衛省・自衛隊の活動に関心を持っていただければうれしいです。ぜひ、皆さんが気になった部分などはSNSでシェアしてください」


※誤字を修正しました(4月2日7時08分)。

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