新型コロナで国際線の運航が平時のように飛ばせないなか、ANAが駐機中の旅客機をレストランとして活用する取り組みを始めています。その「オープン日」の機内の様子や企画の意図などを取材しました。
新型コロナウイルス感染拡大下で国際線の航空便が大幅に減少するなか、ANA(全日空)は旅客機を新たなサービスの場所として使用する取り組みを始めています。
2021年3月31日(水)、羽田空港で実施されたのは、平時は主に長距離国際線で使われている旅客機のボーイング777-300ER型機(機番:JA782A)を地上で駐機したまま、「レストラン」として食事の提供や同社のサービス体験の場として活用するイベント「翼のレストラン HANEDA~地上でファースト・ビジネスクラス体験~」です。
ANAが実施した「翼のレストラン HANEDA」の様子(2021年3月31日、乗りものニュース編集部撮影)。
長距離国際線のビジネスクラスやファーストクラスは、航空便で利用すると高額な運賃が必要です。たとえば、4月8日(木)の羽田発フランクフルト行のANA便で、ビジネスクラスの航空券を購入する場合、検索エンジン「Google」では53万円ほど(検索は3月31日時点)。もちろん買い方によってはこれより値段を抑えられるものの、多くの人にとっては「気軽に手を出すことができない値段」であることは確かでしょう。
一方、今回の「翼のレストラン HANEDA」の値段は、ファーストクラスが5万9800円、ビジネスクラスが2万9800円です(いずれも税込)。これらも「気軽に……」とはいかない価格帯ですが、「実際のフライトよりははるかに低い価格帯で、ANA上位クラスの食事やサービスを受けることができる」ということもあり、販売開始から数日で完売となっています。
今回使われた飛行機のJA782Aは、平時はロサンゼルスやサンフランシスコなどの北米路線、ロンドンやフランクフルトなどの欧州路線を飛んでいる現役の国際線主力機です。計264席のうち、ファーストクラスは8席で、ビジネスクラスは52席が設定されています。
初回に使われたANA機 各クラスにはどんな特徴が?JA782Aのファーストクラスは、高い壁で仕切られたスクエア型のシェルになっており、内部はあらゆる無駄を削ぎ、最大限のスペースを確保しています。「ANA FIRST SQUARE」と名付けられたこのシートは、「まるで自宅のようなプライベート空間が特徴」とのこと。
ビジネスクラスは「ANA BUSINESS STAGGERED」という名称で、フルフラットシートを互い違いに配置した、スタッガードシート配列です。どの席からでも直接通路に出られる全席通路側スタイルが特徴です。
これらの席で、今回は食事をとることになります。メニューは、両クラスとも、和食、洋食(肉)、洋食(魚)の3種類から選べます。内容はANA機で普段から提供されている機内食メニューそのままとのこと。たとえば、ファーストクラスの洋食の場合、以下のコース内容です。

ANAが実施した「翼のレストラン HANEDA」の搭乗時の様子(2021年3月31日、乗りものニュース編集部撮影)。
●アミューズ
・ANA オリジナルスティック
・シーフードのタルタルなど4種類
●アペタイザー
・赤ピーマンムースと蟹のガトー仕立て キャビアとともに
●メインディッシュ
・和牛フィレ肉のグリル 神戸ワインマスタード風味、または金目鯛のポワレ ズッキーニピューレと大阪産レモンのクリームソース
●ブレッドセレクション
・バゲット、米粉ソフト、フィグセーグル、よもぎフォカッチャ
●チーズプレート
・ピクタフルールサンドレ
・ブリヤサヴァランフレ
・シュロスバーガー アルト
・フルムダンベールA.O.C.
●デザート
・桜モンブラン、フォンダンショコラ、抹茶マスカルポーネのうち1種類
※ ※ ※
このように、上位クラスならでは豪華なコース料理となっており、実際の機内と同様にCA(客室乗務員)が盛り付けと配膳をしています。飲み物についても「シャンパンやワインなどを含む、ANAならではのドリンクメニューをご用意」したとのことです。また、機内食を手掛けるシェフが自ら機内をまわり、料理について解説しています。
乗った人の感想はいかほど? 企画者に聞く意図とは今回ANAが実施した「翼のレストラン HANEDA」の“乗客”は2クラスで計56人。なかには、遠方から訪れた人もいたそうです。
「ANAで実施されているA380『フライングホヌ』のチャーターフライトがなかなか当たらないなか、企画を見てすぐに申し込んだ」と話すのは、ビジネスクラスに搭乗した親子。「機内は静かで、安定した気流のなかを巡航しているときとまるで近い感じでした。料理の質も格段に高く、シートがベッドのようにリクライニングすることには、びっくりました」と話します。
「ANAに乗ったことがなく、体験したくて申し込んだ」と話す別の親子は、「両方を楽しめるように親子で洋食と和食をオーダーしましたが、豪華で繊細な味でした。機内の雰囲気はゆったりしており、こんなにゆったりしていたのか、と驚きました」と述べています。

ANA「翼のレストラン HANEDA」で使用されたファーストクラスの機内(2021年3月31日、乗りものニュース編集部撮影)。
企画の中心となったANAマーケティング室の山本卓史さんは、今回の企画について次のように話します。
「航空業界が新型コロナウイルス感染拡大で厳しい状況であるなか、プロジェクトメンバーを有志で集い、2021年の初めごろから、10人ほどのチームでこの企画を実現しました。かねてよりお客様からビジネスクラス、ファーストクラスに乗りたいという声も多くいただいており、本物の国際線でのサービスをご提供できればと考えました」
「翼のレストラン HANEDA」は、4月にも計11日間(14日、16日~19日、21日、23日~27日)、継続して“営業”する予定です。また山本さんは、今後使用する飛行機や空港を拡大し、このような取り組みを行うことを「検討していきたい」としています。
【全体未聞のシェフ登場】動画で見る ANA「旅客機レストラン」