街中で見かける消防車と、空港に設置されている消防車は、見た目やサイズが大きく違います。それには、空港での火のトラブルに備えた理由がありました。

また車種や色についても、実はバラエティがあるのです。

守備範囲、環境も特殊ゆえのモンスターフォルム

 街中に消防署があるように、一部の空港のなかにも、航空災害に対応するための消防署が設けられています。この空港の消防署、その組織も消防車も、街中のものとは大きく異なります。

 街中の消防署は、地方公共団体によって設置され、街中の火災発生に対応すべく消防機材を整備し、消防署員の方々は日々訓練に励んでいます。その業務は24時間絶えることがありません。

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成田空港の空港消防車。米オシュコシュ社のストライカー(乗りものニュース編集部撮影)。

 空港消防署はどうでしょうか。基本的に空港消防署は、その空港の管理者が設置し、消防署員の方々が日々訓練に励んでいるのは街中の消防署と同じです。ただ空港によっては、運用時間が定められているところもあります。業務時間も原則としてその時間内、と思いきや、実は、それ以外にも緊急着陸に備える必要があることから、こちらも、24時間体制で業務にあたるのが一般的です。

 一方、空港に配置される消防車は、普段街中で見るものよりもはるかに大きく、トラックや装甲車に近いような少し変わった形をしています。

これは、空港特有の環境が関係しています。

 空港の消防署には、要請があってから、原則2~3分以内に航空機火災現場まで到達する能力が求められます。たとえば成田空港のA滑走路は4000mあるので、その守備範囲は広大です。

 このダッシュ力はもちろんのこと、化学消防車であることも、空港の消防車に求められる機能のひとつです。これは、航空機の火災が灯油系のジェット燃料に起因するため。また、市街地と違い、空港内に消火栓を配置しているわけでもなく、かといってタンク車を随伴しては迅速性に欠けます。そのため空港の消防車はタンク車としての機能も持ちあわせているのです。

 ちなみに車体は、特にコクピットが高熱にさらされ、爆発に対する耐爆性も備えていなければ乗務員の安全性が確保できないため、堅牢なつくりとなっています。

運用ルールは「国際基準」

 空港消防については、国際基準が「ICAO」という国際民間航空機関によって定められています。もちろん日本もこれに調印しており、基準もそれにのっとったものといえます。ICAOの空港消防に関する項目では、空港の規模に対応して必要な空港消防車の性能と台数が設けられています。

 ICAOでは、空港を11の等級に分け、等級それぞれに水、化学消火剤の確保量、1分間あたりの最大放射量を定めています。

この等級は、通常就航しているシップ(航空機)の規模によって割り振られています。日本では、航空局の定める第1種、第2種、第3種空港という分類が馴染み深いですが、このICAO基準に照らすと、羽田空港は最大の空港規模分類「ACD10」に当てはまり、3台の消防車を設置するように勧告されています。

まるで装甲車 空港の消防車はなぜデカいのか 「赤」じゃないものも 街中の消防車との違い

成田市三里塚消防署の消防車(種山雅夫撮影)。

 なお、我が国には100近くの空港がありますが、実は空港消防署を設置しているのはその半数以下です。地方自治体が管理する空港では、近隣の消防署が空港消防署の役割を果たすことも想定されているのかもしれません。

 成田空港の場合、空港西側への航空災害を想定しているためか、成田市三里塚消防署にはモリタ社の航空機災害用大型化学車が配置されています。空港災害に対応できる空港用大型化学消防車として、前述のダッシュ力、化学消防機能、高度な耐火、対物性などが要求されることから、日本の消防車を開発してきたモリタ社が、空港用の化学消防車を開発してきました。しかし最近は、アメリカやヨーロッパで開発され、世界中の空港で使用された実績のある車両が国内でも採用されるようになっています。

車体色「赤」じゃないものも

 海外製の空港用化学消防車としては、アメリカの老舗トラックメーカーから派生したオシュコシュ社が販売している「ストライカー」、オーストリアの老舗消防車メーカー、ローゼンバウアー社が販売している「パンター」などが有名です。

 オシュコシュ社は、1950年代から空港用消防車を開発するなど長い歴史を持ち、2010年頃から「グローバル・ストライカー」が販売されています。オシュコシュ社は装甲車などを手掛けていることから、「ストライカー」のダッシュ力は保証されているということでしょうか。

 一方ローゼンバウアー社も、1965(昭和40)年頃から空港用化学消防車を開発してきました。

「パンター」はもちろんのこと、同社の最新型である「スティンガー」は、総2階建ての大型機エアバスA380クラスの機体上部にも届くような、クレーン式の放水装置を装備しているのが特徴です。

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空港消防車は記念便のウォーターキャノンなどを担当することもある(乗りものニュース編集部撮影)。

 ちなみに、消防車といえば、車体の塗装は緊急時異目立ちやすい真紅なのですが、実は関西空港のパンターは、夜間などにおいての視認性を重視して黄色に塗られています。これは、空港内での運用のみとしているため、法令上赤としなければならない、緊急自動車の指定を受けていないことも実現の要因です。なお、海外にも、アトランタ空港などで黄色っぽい「ストライカー」が存在します。

 なお、陸海空の3自衛隊でも飛行場を管理しており、それぞれ空港用科学消防車を配置しています。航空自衛隊は「破壊機救難消防車」、海上自衛隊陸上自衛隊は「救難消防車」と呼称しています。ただ自衛隊でも、伝統的に国産車が多かったのですが、ここでも消防車のグローバル化が進んでいるようで、最近は「ストライカー」などを採用しているようです。

 空港の運用には、様々な人の手が関わっています。消防についてもその限りではなく、緊急時に備えて日々訓練を繰り返して、その日のための準備をしています。

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