旅客機が目的地の空港へ着陸する際には、管制官とパイロットが連絡を取り合い、事前に定められたコースや高度で飛びますが、なかには「管制官が一方的にしゃべる」ケースも。いまやレアな方式ですが、それはもはや職人技の世界でした。

「ILS」だけじゃない着陸進入

 飛行機の運航で最も慎重を要する場面は、なんといっても着陸時。旅客機の着陸進入は、滑走路の近くまで自由に飛ぶのではなく、「計器進入方式(IAP =Instrument Approach Procedure)」というルールにのっとりフライトするのが一般的です。

 これは、着陸前の数分間、着陸空港の滑走路末端から20~40km程度の空域を、事前に定められたコースや高度で飛ぶことで、安全性や正確性を高めるものです。ANA(全日空)のパイロットによると、「航空会社のフライトの90%以上がこの方式で進入する」のだとか。

職人技! 管制官の「肉声ガイド」のみで滑走路へ… ANA操縦...の画像はこちら >>

着陸するANAのボーイング787-9(乗りものニュース編集部撮影)。

「着陸進入にあたっては、地上に近づくにつれて障害物を避けて飛行すること、とくに航空機が多く飛んでいる空港周辺で、他の航空機と安全な間隔を取って飛行すること、正確な経路を飛行することが大きなポイントです。また、天気が悪いときでも滑走路まで安全に降りてくることが求められます。計器進入方式は、そのための手段です」(ANAパイロット)。

 つまり、正確で安全な着陸進入を常に実現するためには、さまざまな条件を鑑みて事前にしっかりと定められたルールやシステムに従って操縦することが、もっとも効率的であり、計器進入方式は、それを実現するための最適解のひとつ、ということでしょう。

 この計器進入方式にはいくつか種類があり、パイロットは空港や気象条件によって使い分けているそう。もっとも一般的な方式は、滑走路から縦(上下)方向と横(左右)方向へ発出される電波のガイドに沿うように操縦することで、滑走路の至近まで安全にたどり着く「ILSアプローチ」ですが、その種類はこれだけにとどまりません。ただ、いずれにせよパイロットは、地上から電波やGPS電波、地上の目標物といったものをガイドに目的の滑走路までたどり着くのが一般的です。

 ただ、この例外となるのが「PAR(Precision Approach Radar、精密進入レーダー)アプローチ」というもの。前出のANAパイロットが「実施する機会がほとんどなくなってきた」というこの進入方式、どのようなものでしょうか。

「PAR」はどんなもの? 国内実施空港には共通点が

 この「PARアプローチ」を行う際、パイロットが目的地空港の滑走路にたどり着く“カギ”となるのは、管制官の声です。ANAのパイロットは、この進入方式について次のように説明します。

「PARアプローチは、管制官が精密なレーダースコープを見ながら飛行機の縦方向・横方向のズレを無線で逐一パイロットに伝えていく方法です。考え方としてはILSアプローチと同じで、ILSは電波を用いてガイドしますが、それを管制官が画面を見ながら、声を使ってガイドを実施する、というイメージかと思います」(ANAのパイロット)

職人技! 管制官の「肉声ガイド」のみで滑走路へ… ANA操縦士に聞くいまやレアな着陸進入

那覇空港に着陸するANAのボーイング767(乗りものニュース編集部撮影)。

 なお、平時であればフライトにおける管制官とパイロットは、無線交信の内容を細かに復唱確認するなど、双方向のコミュニケーションをとりながら機体を離着陸させますが、このPARアプローチではその意味でも特殊です。というのも進入中、管制官からの指示がいわば一方的に飛び、それをもとにパイロットが操縦するのです。またこの進入方式では、方位1度単位でコースを細かく修正されることで、精密さに定評がある、ILSに匹敵するような正確性を保っています。

 ちなみに、このPARアプローチ、比較的歴史が長い着陸進入方法で、前出のANAパイロットはその成り立ちを次のように説明します。

「PARは、もともとは軍事用の技術で、可搬型のレーダースコープと無線のみで運用できるため、飛行場でない広い土地や空母などに着陸する場合にも精度の高い着陸誘導ができることから使用されてきた、ともいわれています」(ANAパイロット)

 このこともあってか、2021年現在、国内空港で民間機にPARアプローチを提供する空港は、すべて自衛隊が常駐する場所です。小松、那覇、千歳などがこれにあたります。

なお、千歳でこの着陸進入が使用されるのはごくまれ。夜間の滑走路閉鎖時やILS停波時など、平時の新千歳空港側の滑走路を使わず、隣接する航空自衛隊千歳基地側のものを使用するケースのみとのことです。

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