八王子の西東京バスが、新宿とのあいだに高速バス新路線「通勤ライナー」を運行します。JR中央線や京王線でも同区間で「必ず座れる有料列車」が運行されるなかで参入する背景には、新型コロナを経た通勤の変化がありました。
八王子などを拠点に路線バスを運行する西東京バスが、2021年6月1日(火)から八王子・日野~新宿間の高速バス新路線「通勤ライナー」を運行します。その試乗会が5月25日(火)に行われました。
本数は朝の新宿行きが1本、夜の八王子行きが2本で、基本的に平日(夏休みや年末年始運休)のみの運行。全区間乗り通した場合の所要時間は、各便おおむね2時間です。運賃は大人1000円(交通系ICカードまたは事前決済時。現金1100円)、ルートは便により異なります。
通勤ライナー試乗会に使われた西東京バスの車両(2021年5月25日、中島洋平撮影)。
「新型コロナウイルス感染拡大で、通勤のあり方が大きく変わっています。そのなかで高速バスは定員が決まっていますので、一定以上の混雑を回避しての通勤が可能です。1000円でも勝機があると考えています」(西東京バス 営業部部長 井上喜央さん)
さらに、「新型コロナを経て、通勤手段を選べる時代になりました」と話すのは、同社営業部 課長補佐の渡辺耕祐さんです。従来のように定期券を購入せず、たまの出社で実費精算する人が増えていることからも、高速バス通勤による新たな価値を提供できると考えたそうです。
ただ、八王子~新宿間では新型コロナ以前から定員制の有料座席列車として京王電鉄が「京王ライナー」を、JR東日本が特急「はちおうじ」を運行しており、ある意味“座れる通勤列車”の激戦区間です。
これに対し、今回の通勤ライナーは、おもにルートで差別化しています。その大きな特徴としては、「八王子駅や京王八王子駅を経由しないこと」「日野駅への全便停車」が挙げられるでしょう。
乗り換え必要な地域から新宿へ直行 ルートの妙試乗会では、朝に新宿へ向かう上り便のルートを実際に走行しました。
始発の「横川」は、朝4時39分発。八王子駅から西へバスで20分ほどのところで、周辺には団地があります。やがてバスは八王子駅入口交差点を駅とは反対方向の北へ向かい、浅川を渡って「八日町4丁目」「大和田団地下」に停車。いずれも住宅街や団地に近く、新型コロナ前は八王子駅までのバス定期券を持つ人も多かったといいます。
この先で停車する「北八王子駅入口」「ケンウッド前」「宇津木台南」は、JR八高線の北八王子駅や小宮駅を利用する人が多く、そこからの転換も見込まれるとのこと。
さらに多摩大橋を渡り、日野市内の「東光寺団地入口」に停車したのち、「日野駅」が最終の乗車地です。その後は国立府中ICから中央道へ入り、新宿駅には6時48分に到着します。朝早い時間設定は、中央道の渋滞を考慮した定時性確保のためだとか。
このルート選定にあたっては、携帯電話の位置情報データをもとに、営業エリアのなかで新宿へ向かっている人が多い地域を調査したうえで設定したといいます。
なお、車両については専用車ではなく、試乗会では運休中の八王子~成田空港線車両のものが使われました。今後は、新宿~富士五湖線の車両などと共通で運用していくということです。

新宿駅の乗降場所は西口26番乗り場(2021年5月25日、中島洋平撮影)。
新型コロナの感染拡大により、高速バスは大きな打撃を受けています。西東京バスも同様で、長距離の夜行バス、羽田・成田両空港の連絡バスも、利用者数はおよそ9割減の状態だといいます。
そうしたなか、たとえば兵庫県の神姫バスが姫路~三宮間で同様に「姫路駅を経由しない通勤高速バス」を新設するなど、通勤の需要に商機を見出す動きもあります。西東京バスもまた、今後の需要を見て増便も検討するそうです。