電車の車内で流れる英語放送、実際にどのような文章になっているのでしょうか。複雑な表現もあれば、日本語と異なる内容になっている場合もあります。
グローバル化やインバウンド需要への対応のため、鉄道でも駅や車内で英語の案内放送を行う場面が増えてきました。その英語放送、実際にどのような文章になっているのでしょうか。もちろん日本語の放送内容と主旨は同じでしょうが、細部に違いが見られます。
通勤電車のイメージ(草町義和撮影)。
●レア度1
・「次は、○○、お出口は△側です」
The next station is Shibuya, station number JY20. The doors on the left (right) side will open.
【訳】次の駅は渋谷、駅番号JY20です。左(右)側の扉が、開きます。
※「左側の扉」を「The doors on the left side」と表現します。鉄道会社によっては、停車駅を「stop」と呼ぶところもあります。
・「〇〇線はお乗り換えです」
Please change here for the Saikyo line and the Hibiya Subway line.(JR東日本在来線)
【訳】こちらで、埼京線と地下鉄日比谷線に乗り換えてください。
Passengers changing to the Setagaya line, please transfer at the station.(東急ほか)
【訳】世田谷線へ乗り換える乗客は、その駅で乗り換えてください。
Passengers going to the Meitetsu line, please change trains here at Gifu-Hashima.(新幹線)
【訳】名鉄線へ行く乗客は、こちら岐阜羽島で電車を乗り換えてください。
※「乗り換える」という言葉は、「change」と「transfer」のふたつが主に用いられます。
ちなみに、横浜市営地下鉄は「Yokohama municipal subway」と英訳される一方、私鉄であるりんかい線は「Tokyo rinkai kousoku tetsudo rinkai line」、東葉高速鉄道は「Toyo kosoku tetsudo line」、江ノ電は「Enoshima dentetsu line」、泉北高速鉄道は「Semboku kosoku line」とほぼ日本語で案内されます。
京王競馬場線など、一駅だけの支線に乗り換える場合、「for Fuchu-keiba seimonmae」などと、路線名を省くことがあります。
・「まもなく○○に到着します」
Arriving at Omotesando.(東京メトロ)
【訳】表参道に到着しています。
We will soon arrive at Shimo-kitazawa.(京王ほか)
【訳】(私達は)まもなく、下北沢に到着します。
We will soon make a brief stop at Shin-fuji.(新幹線)
【訳】(私達は)まもなく、新富士で短い停車(一時停止)を行います。
※新幹線や関西のJR在来線で耳にする独特の表現が「make a brief stop」でしょう。通過待ちがある際も、「brief」(短い、束の間)と案内されるのはご愛嬌でしょうか。なお、JR東日本在来線は、到着の放送でも「The next station is~」を使います。
・「携帯電話はマナーモードにしてください」
Please set your mobile phone to silent mode and refrain from talking on the phone.
【訳】あなたの携帯電話をサイレントモードにセットして、電話で話すのは控えてください。
※refrain from~(~を控える、我慢する)という表現は他にも、喫煙や飲食などを「遠慮してください」と言う際にも使われます。また、「マナーモード」という表現は和製英語なので、他国では通じません。

東海道新幹線の電光掲示板の英語案内(画像:写真AC)。
・「列車は~両です。足元○色◎印の、△番から□番で2列に並んでお待ち下さい」
This train consists of 12 cars. Boarding locations are indicated by white triangles, and No.1 through 12. Please form two lines to board the train.
【訳】この列車は12両で構成されます。乗車位置は白色三角、ならびに1番から12番で示されます。2列を形成して列車に乗車してください。
※関西圏のJRで耳にする放送です。「to board~」は目的の不定詞なので「列車に乗るために2列を形成してください」が直訳ですが、上記の訳のほうが自然かもしれません。
・「停車駅は〇〇、△△、…、□□からの各駅です」
This train will be stopping at Kakogawa, Nishi-Akashi,…, and Maibara. After leaving Maibara, this train will be stopping at every station before arriving at Nagahama terminal.
【訳】この列車は加古川、西明石、…、米原に停まります。米原を出た後は、終点長浜に到着するまですべての駅に停車します。
※途中から各駅に停車する場合によく見られる表現です。before ~ingは「~する前に」という意味ですが、ニュアンスとしては「その後に、~する」といった感じが自然かもしれません。
その他、音声合成の発達などとともに、多種多様な英語放送が見られるようになりました。同じくJR西日本の新快速でも自動音声による放送が本格化しましたが、「トイレは一番うしろの1号車にあります」などといったきめ細かな案内も英語でなされます。
●レア度2
・「この列車には優先座席があります」
There are priority seats in most cars. Please offer your seat to those who may need it.
【訳】優先座席が、多くの車両にはあります。あなたの席を、それを必要かもしれない人へ提供してください。
※「most」はこの場合「たいていの」という意味で使われます。「those who~」は「~する人たち」という意味で、最後のitは「your seat」を指します。
・「この先、揺れます」
We will be changing to another track. If you are standing, please hold on to the hand strap or rail.
【訳】(私達は)別の線路へ移ります。もしあなたが立っていたら、つり革か手すりに掴まってください。
※日本語と英語で表現が全く違うパターンで、英語放送では「転線」という、電車が揺れる具体的な理由が述べられます。「hand rail」はエスカレーターやバスの手すりなどで一般的に用いられ、海外の鉄道やバスの車内放送でもよく耳にする表現です。「rail」だけなのは、「hand」を2回言うのを避けたのでしょうか。
・「急停車する場合があります」
It may be necessary for the train to stop suddenly to prevent an accident, so please be careful.
【訳】事故を防ぐために列車が急に止まる必要があるかもしれません。ですので、気をつけてください。
※英文法でおなじみの「it構文」です。
●レア度3
●レア度3
・「〇〇線直通の、△△行きです」
This train will merge and continue traveling as express on the Hanzomon line and the Tobu line to Kuki.(東急)
【訳】この列車は融合し、半蔵門線および東武線で急行として、久喜まで運転を続けます。
※東急で使われる、独特の表現です。mergeは自動詞で「融合する、合併する」を表します。企業合併の「M&A」のMはこの頭文字です。continue ~ingで「~し続ける」を意味します。直通運転の案内の表現は、会社によって「via~」(~経由)を用いる場合もあります。
ちなみに、りんかい線・埼京線・川越線を直通運転する列車の放送はより簡略で、川越行きはりんかい線内で「This is the JR Saikyo line」、新木場行きは川越線内で「This is the RInkai line」と放送されます。
なお、行き先を案内する場合、通常は「bound for~」の表現が多く用いられます。
Please change here for the Shonan-Shinjuku line, the Saikyo line, through service to Sotetsu line, ….(JR山手線・大崎駅)
【訳】湘南新宿ライン、埼京線、相鉄線への直通運転(の列車)、…は乗り換えです。
「直通運転」にthrough serviceという表現を使っています。
●レア度10
・「緊急停止します」
Attention please, the emergency brake has been applied.
【訳】ご注意ください。緊急ブレーキが用いられました。
※ブレーキがかかったままなので、「has been applied」と現在完了形になっているのがポイントです。
できるだけ耳にしたくない放送ですが、万一の際にも外国人向けの案内が準備されています。
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英語での表現をある程度知っておくことで、鉄道を利用する外国人を案内する際、助けになるかもしれません。