飛行機はごくまれに、離陸滑走を開始したのちに、急停止することがあります。この機はその後、どうなるのでしょうか。
国の統計によれば、日本で最も「交通量」が多い羽田空港の一日の着陸回数は、2019年で平均628回です。ほとんどの飛行機が折り返して離陸するので、離着陸をあわせると1200回を超える計算です。
そうしたなか、ごく稀ではあるものの、離陸中に急停止するケースも起こります。「アボートテイクオフ」や「RTO(リジェクトテイクオフ)」といいい、ボーイングが公開している統計によるとその確率は3000回に1回、つまり0.03%だとか。筆者(タワーマン、元航空管制官)の体感からすると、一年に一回遭遇するかどうかのレアケースです。
理由は出発時のセッティングミス、エンジンやフラップなどの故障を知らせるインディケーターの表示が出た、といったところが多いのですが、なかには滑走路に入っていざ離陸という時に、カンパニーレディオ(旅客機の社内無線)で手荷物の搭載忘れに気がついたため急遽ターミナルに戻るよう、航空会社側から指示があったため中断した、なんてハナシもあります。
離陸に失敗した飛行機はその後、どうなるでしょう。このあとの航空機の動きを管制官の視点から見ていきます。
羽田空港の旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。
航空管制官は当該機に対し、まず状況確認を行います。たとえば「離陸を止めた理由」「離陸準備までどれくらい時間が必要か」「もう一度離陸をやり直すか、もしくはターミナルに帰るか」「どこか適当な場所でトラブル解決のため待ちたいか」など、離陸を取りやめた経緯や意向をパイロットに質問します。
ひととおり状況確認ののち、旅客機は次の行動を取りますが、それは離陸を中止したときの状況により異なってきます。
機によって異なる次の行動 どんなものが?最も幸運な場合は、たとえばフラップ角の調整、飛行管理装置の入力修正のような、離陸を再トライしても安全を担保できるようなトラブルであるとパイロットが判断し、かつ滑走路が空いている場合です。このときには、数十秒待った後にもう一度離陸を開始できます。
ただ大きな空港のケースではたいてい、管制官は「Taxi via runway due to traffic」、日本語でいえば「交通状況により、(離脱に向け)滑走路を走行してください」と当該機に伝えることになります。

羽田空港の管制塔(乗りものニュース編集部撮影)。
これはつまり、「早く滑走路を出よ」の指示。到着機が迫ってきているケースはもちろんのこと、当該機の後続には大勢の航空機が待っているので、居座らせるわけにはいかないからです。また、即時の離陸再開が可能だとしても、いったん滑走路を出た上、離陸を待つ飛行機の列の最後尾に回されることもあります。これは他機との公平性を確保するためです。
そしてパイロットや航空管制官にとって、厳しい対応が迫られるのは、高速の状態からの急停止です。
離陸継続の最後の判断となる速度のV1付近で急停止したとなれば、軽微なRTOのときとは打って変わって真逆の対応を取ります。航空管制官は状況を聞くまでもなく、到着機がいようものなら迷わずゴーアラウンド(着陸復行)を指示します。後続の出発機は他の滑走路に誘導し、当該機が通る道を塞いでいる飛行機を動かす指示まで出します。緊急度合いが高いときほど、当該機以外のパイロットも静かに管制官の指示を待つものです。RTOにおいては、その緊急性があがればあがるほど、周辺の旅客機や関係者、そして管制官の「チーム力」が高まり、危機を乗り越えていく、ともいえるでしょう。
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