一部の超大型機でトレードマーク的存在とも言える2階席「アッパーデッキ」、ここはどのように使われているのでしょうか。実はここでは、時代や国、航空会社によって一筋縄ではいかないレイアウトが採用されていました。

初期はラウンジやファーストが多数

 旅客機の2階席「アッパーデッキ」と言えば、一部の超大型機においてトレードマーク的な存在です。かつてアッパーデッキは「ジャンボジェット」ボーイング747でしか見られないものでしたが、21世紀に入り総2階建てのエアバスA380がデビューしました。

 とはいえ、747の旅客機は日に日に少なくなっています。おもな理由は経年のほか、より小ぶりなサイズながらもエコで低騒音な新型機の台頭などが挙げられます。2021年現在、747のおもな活躍の場は貨物型といえるでしょう。一方、A380についてはデビューからそれほど時間は経っていませんが、新型コロナウイルス感染拡大の影響をうけ、海外では退役を早める航空会社も見られます。2021年6月現在は、A380を日本線に投入する航空会社は、ほとんど見られません。

「2階席=高嶺の花」とは限らない!? 旅客機アッパーデッキ事...の画像はこちら >>

手前がANAのA380。奥はボーイング747の貨物機(恵 知仁撮影)。

 この「アッパーデッキ」内部の様子はどのようになっているのかというと、機内のレイアウトは航空会社ごとに決めることができるので、それこそ多種多様な使い方が見られます。

 初期型の747(747-100や-200などの「クラシック」)のアッパーデッキは、その閉鎖性から、パンアメリカン航空では、「ファーストクラス」として使用していたほか、JAL(日本航空)では旅客が長時間フライトでも退屈しないように「ラウンジ」として使用していたことがあります。まさにアッパーデッキは、「国際線の花形」といえるエリアでした。

 先述のとおり、747はおもに長距離国際線を担当し、300人程度の乗客を運ぶ――というのが、スタンダードな用途でした。ただ、この例外となったのが日本です。羽田からの大阪、新千歳や福岡線といった、いわゆる国内幹線は、世界でも屈指の利用者数をもつ路線である一方で、羽田発着の便には厳しい制限があったことから、日本では747がこういった短距離国内線へ投入されました。

 747自体の使い方もさることながら、日本にのみ導入された短距離仕様の747-400Dは、アッパーデッキの使い方も、いわゆるスタンダードなものとは大きく異なりました。本来は選ばれしリッチな人のみが乗ることのできるアッパーデッキを、普通席として開放したのです。

なぜ国内仕様の747は普通席に?

 実は、国内線における747の運航には、大きなネックがありました。アッパーデッキから乗降する際、時間がかかることです。

 ファースト、ビジネスといった上位クラスの搭乗客は、優先的にいち早く降機できるというメリットがあります。

 国内線の旅客機は目的地に到着してから、次に使う便として出発するまでの時間が短く設定されているのが一般的です。そのなかで、国際線と同じように上位クラスの乗客をアッパーデッキへ乗せてしまうと、乗客全員の降機時間が伸び、やがては後続便の遅延を招く可能性がありました。

 そのため、たとえばJAL、ANA(全日空)の国内線仕様機「747-400D」では、「スーパーシート」などに代表されるような上位クラスは1階の最前列に設置し、乗降の利便性を確保。このためアッパーデッキには普通席が設置されていたのです。

「2階席=高嶺の花」とは限らない!? 旅客機アッパーデッキ事情 なぜ日本は2階に普通席?

「マリンジャンボ」塗装のボーイング747-400D。主翼先端に立ちあがる「ウイングレット」がないのが特徴(画像:ANA)。

 一方、海外のいわゆる「大手航空会社」の2階建て機においては、アッパーデッキの内部はどのようになっていたのでしょうか。

 ルフトハンザ・ドイツ航空の747の多くは、アッパーデッキにビジネスクラスを設置。メインキャビンの1階最前列にファーストクラス、もしくはビジネスクラスを備えるレイアウトが一般的なようです。いずれも全機退役済みですが、カンタス航空、ユナイテッド航空、ブリティッシュ・エアウェイズといった747-400も同じようなレイアウトを採用しています。

 ただ、これは747シリーズのベストセラー機「747-400」の例。半世紀の歴史をもつ「ジャンボ」シリーズには、とてもユニークなタイプや仕様が存在します。

変わった747には変わったレイアウトが…?

 たとえば、KLMオランダ航空では、747-400の貨客混載タイプを採用していました。この機は、ファーストクラスの設定はなく、アッパーデッキと1階最前列にビジネスクラス、その後方にエコノミークラスが設定されています。なお、混在型の特徴である貨物室は、メインキャビンの胴体後部にあります。

 747シリーズで異色の存在といえるのが、胴体を短縮して、その重量を燃料に使用して航続距離延長を図ったタイプ「747SP」です。

アメリカン航空や、カンタス航空の747SPはビジネスとエコノミーの2クラス制で、アッパーデッキと1階前方にビジネスクラス、1階後方にエコノミークラスといったレイアウトだったようです。

 なお、同機のローンチカスタマーであり、東京~ニューヨーク線で初めての直行便運航を果たしたパンアメリカン航空では、アッパーデッキと1階最前方がファーストクラス、1階中央部がビジネス、後方がエコノミーといったレイアウトが一般的でした。

「2階席=高嶺の花」とは限らない!? 旅客機アッパーデッキ事情 なぜ日本は2階に普通席?

カンタス航空のボーイング747SP(画像:カンタス航空)。

 ちなみに、現在の2階建て機の主力であるエアバスA380では、2階に上位クラス、1階にエコノミークラスを設けることが多いようです。ただ、かつてのシンガポール航空ではファーストクラスに相当する最上位クラス「スイート」を1階席に設置していたこともあったようですが、最新仕様ではアッパーデッキに移されています。シンガポール航空のスイートは、フルフラットベッドが搭載されています。

 なお、A380は、ANAが成田~ホノルル線専用機として導入したことで、国内では大きな注目を集めました。ただ、2021年現在は、コロナ禍の影響で運用からは外れており、地上で多くの時間を過ごしているようです。もしこの機を国内線に投入できれば、その超巨大な収容力を生かせると筆者は願っているのですが、現実そうもいかないようです。そのことについては、また機会があれば紹介できればと思います。

 冒頭にご紹介したJALのアッパーデッキにあったラウンジ、一度乗ってみたかったものです。

編集部おすすめ