路線バスのダイヤ改正は例年、4月や10月に行われますが、2021年は5・6月に行われるケースが多く見られます。なかには売上減少で、背に腹は変えられない改正となったケースもあります。

路線開設と廃止を繰り返し…また力尽きた高速バス

 路線バスや高速バスのダイヤ改正は、例年なら4月や10月に集中しますが、2021年は5月や6月をもって廃止、あるいは減便するという路線も相次いでいます。

 コロナ禍による移動需要の減退によって、その時期を待たずに廃止・減便が急がれるケースといえ、なかには運休からそのまま正式廃止がアナウンスされるケースもあり、背に腹は変えられない事情もあるようです。5月、6月をもって姿を消したり減便されたりする全国の主なバス路線をピックアップします。

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かつての「しまんとライナーつばき号」。足摺岬に発着していたが、宿毛・大月発着の「しまんとライナーさんご号」と系統統合により消滅、残った系統も今回廃止となる(宮武和多哉撮影)。

●高知西南交通:「しまんとライナー」(高知県)
・廃止区間:宿毛駅~中村駅~高知駅・一宮バスターミナル
(2020年8月31日〈月〉最終運行、6月15日〈火〉廃止)

「しまんとライナー」は高知県南西部、宿毛市・土佐清水市・四万十市と高知市を結ぶ路線の昼行便です。その距離は同一県内ながら100kmを超え、道路事情もあって時間を要するものでした。

 1957(昭和32)年に現在の土佐清水市で起きた「伊豆田峠バス転落事故」が佐田啓二さん(俳優・中井貴一さんのお父様)主演で映画化された際も、隣町への移動すら命懸けとも言える当時の様子が描かれています。当時の高知市からの直通バス「足摺特急」は、鉄道や関西から直通で運行されていたフェリー航路との競争もあり、一度は廃止され、ローカル系統のみの運行となっていました。

 その後は伊豆田峠も新道、そのまた新道も開通し、高知自動車道の延伸とともに2012(平成24)年には現在の「しまんとライナー」が複数系統で運行を開始しました。しかし、やがて1系統に整理され、2020年時点では地域内各都市を大回りし、4時間かけて高知市に直通するもののみに。ようやく定着したかに見えましたが、その矢先に緊急事態宣言とコロナ禍による観光需要の激減で運行休止となり、再開されることなく正式に廃止が発表されました。

地方バスの雄・十勝バス、18年ぶりの大規模改正へ

●十勝バス:循環記念病院線、西地区コミュニティバスなど3系統(北海道)
・廃止区間:十勝バス本社~帯広記念病院(循環記念病院線)、メガ・ドン・キホーテ西帯広店~マックスバリュ西陵店(西区コミュニティバス)ほか
(6月30日〈水〉最終運行、7月1日〈木〉廃止)

 かつて郊外路線の削減と、各戸へ訪問しての時刻表配布など地道な営業で劇的に復活を果たした十勝バスも、廃止・減便を伴うダイヤ改正を余儀なくされました。同社の2021年3月期決算の売上は、コロナ禍によって前期比36%も減少しています。

なぜこの時期に? 全国「2021年5~6月廃止/減便の路線バス」 やむを得ぬ決断も

黄色い塗装が目立つ十勝バスの車両。写真は音更線(宮武和多哉撮影)。

 6月いっぱいで廃止となる3系統は、いずれも既存路線で代替できますが、その既存路線も平日に合計417便から366便まで削減され、影響が大きそうです。

 減便対象のなかには、旧国鉄士幌線の代替路線でもあり、現在も平日朝には運転本数の多い音更線(十勝バス本社・帯広駅~道の駅音更)や、冬季に1便あたり平均利用者が40人近くにのぼる「大空団地線」も含まれています。他方、十勝バスは大空団地で系列の介護事業や保育施設などを集約させ、コンパクトな移動需要を醸成する「大空ミクロ戦略」を掲げており、やむを得ない事情も伺えます。そのなかでも、スーパーを経由する新系統などで利便性を損なわないように対策を立てているそうです。

大都市近くでも進む路線整理

 中部地方でも路線整理の波が来ています。

●富士急静岡バス:三四軒屋線(静岡県)
・廃止区間:富士駅南口~三四軒屋
(6月30日〈水〉最終運行、7月1日〈木〉廃止)

 JR富士駅から南、富士川河口近くの三四軒屋(さんしけんや)地区へ向かうこの路線は、2020年8月に行われた富士市交通協議会で「コロナ禍が長期化した際のサービス切り下げ案」として、富士急静岡バスより廃止が打診された6系統に入っていました。同時に廃止提案があった「蒲原病院線」も、先立って3月に廃止されており、三四軒屋線は富士市コミュニティバス「みなバス」による代替準備が整った6月末での廃止となりました。

●名鉄バス:鳴海線(愛知県)
・廃止区間:鳴子みどりヶ丘~平針運転免許試験場
(5月31日〈月〉最終運行、6月1日〈火〉廃止)

なぜこの時期に? 全国「2021年5~6月廃止/減便の路線バス」 やむを得ぬ決断も

名鉄バスの車両(宮武和多哉撮影)。

 名鉄の鳴海駅から北上する名鉄バス路線は、ダイヤ改正で「鳴子みどりヶ丘」止まりとなり、その先にある名古屋市緑区・天白区境沿いの島田・中平地区や平針運転免許試験場などへの運行から撤退しました。その中には、珍名バス停として知られる「ほら貝」バス停(ゲオほら貝店などの周辺)も。しかし、撤退する地域のほとんどは名古屋市交通局(市バス)の路線でカバーされており、運転免許試験場へのアクセスも、今後は地下鉄桜通線の徳重駅や、鶴舞線の平針駅を使うことでカバーできます。

背に腹は変えられない、送迎バスサービス縮小

 空港内の連絡バスも減便です。

●羽田空港ターミナル間連絡バス(東京都。6月1日〈火〉~減便)

 羽田空港の第1から第3のターミナルビル間を結ぶ無料連絡バスも、航空便の削減などによって減便を余儀なくされています。

 今回の減便対象となる「Aルート」は3つのターミナルを、通常時は4分間隔で結んでいました。これが2021年3月の減便で8分間隔に、さらに6月からは、1時間3本の運行となっています。また深夜に離発着する航空便に対応するCルートは、航路の運休に伴い休止が続いています。

なぜこの時期に? 全国「2021年5~6月廃止/減便の路線バス」 やむを得ぬ決断も

羽田空港のターミナル間連絡バス(乗りものニュース編集部撮影)。

●グンゼタウンセンターつかしん送迎バス(兵庫県)
・廃止区間:阪急塚口駅~つかしん
(6月27日〈日〉最終運行、6月28日〈月〉廃止)

 大規模な衣料品工場の跡地に1985(昭和60)年に開店した「つかしん」は、独特の形状の斜行エレベーターのほか、地元出身のお笑いコンビ「ダウンタウン」の番組向け投稿ポスト「トスポ」が設置されていたことでも知られています。しかし兵庫県と大阪府の両側から来店しやすいことがアダに。

2府県の緊急事態宣言の影響で土日の休業など苦境が続き、送迎バスも定員をほぼ半減させての運行が続いていました。

 新型コロナウイルスの感染拡大はバスに多大な影響を及ぼしており、このほかにも、ある程度混み合う路線や、減便すれば通院・通学に支障が出る路線でも削減せざるを得ないケースが全国で見られます。

※誤字を修正しました(6月30日16時20分)。

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