国産のバイオジェット燃料を使った民間機のフライトが初めて実施されました。排出CO2削減の有効かつ“現実的な”手段と目されているバイオジェット燃料、これが普通に使われるようになる日も遠くないようです。
国産の「バイオジェット燃料」を使った旅客機がついに飛びました。
ユーグレナ社は2021年6月29日(火)、羽田~鹿児島間でバイオジェット燃料を使ったプライベートジェットのフライトを実施し、羽田空港の格納庫で記者発表を行いました。6月初旬に国土交通省の調査機で初のフライトが行われましたが、今回は民間機における初フライトです。
機体は、航空パイロットで個人投資家でもある千葉功太郎さん所有の「ホンダジェット エリート」。日本納入第1号機です。
使用されたバイオジェット燃料は、微細藻類ミドリムシ(学名ユーグレナ)と廃食用油からなる燃料を通常のジェット燃料に配合したもの。飛べばCO2は排出しますが、食用油とミドリムシ、どちらも光合成で育つ生物であり、地中に埋蔵されたCO2(二酸化炭素)を排出する化石由来でないことから、排出CO2削減につながるといいます。
一方で、通常の燃料と同品質が確保されているそうで、日本(揮発油等の品確法)およびアメリカの認証(ASTM規格)を取得しています。
フライトに使われた千葉功太郎さん所有のホンダジェット エリート(中島洋平撮影)。
「バイオ燃料の研究を始めて11年、ようやく民間の飛行機を飛ばすことに成功しました。『飛び恥』、もうそんな言葉は使わせません。2050年にCO2排出量をゼロにする、その第一歩が今日です」(ユーグレナ 出雲 充社長)
「飛び恥」とは、大量のCO2を排出する飛行機に乗るなんて恥ずかしい、という考え。
今回のフライト実現により、ユーグレナのバイオ燃料はバス、フェリーなど含め陸海空すべての移動体での使用実績を得ました。これを機に、ユーグレナは自社のバイオ燃料を「サステオ」と命名。「サステナブルなオイル」の略だそうです。
4年で生産量2000倍! 価格は下がる?ユーグレナのバイオジェット燃料「サステオ」は横浜市に建造された実証用プラントにて製造されています。現在の価格は1Lあたり1万円と高額なことから、目下、その生産量増加が課題です。
「生産量が増えれば値段は確実に下がります」とユーグレナ社の出雲社長。今後の事業構想を、副社長の永田暁彦さんが説明しました。
まず現在、サステオは9割が廃食用油、1割がユーグレナですが、今後は後者の配合比率を上げるとのこと。これまでは国内でユーグレナを製造してきましたが、インドネシアにて大型の製造設備を建設中で、2024年にも完成見込みだそうです。
「いま世界のバイオ燃料は、トウモロコシなどの食物由来では批判が大きいことから、廃食用油が主流になっており、その調達コストは今後どんどん上がります。

左から千葉さん、出雲社長、永田副社長。揃いのはっぴは、55年前の6月29日に初来日したビートルズへのオマージュ(中島洋平撮影)。
現在、フィンランドのネステ社は廃食用油を主体としたバイオ燃料を1Lあたり200円以下で提供しているといいます。その価格を実現しているのが供給量。ユーグレナ社の実証プラントが年125KLの生産に留まるのに対し、ネステはその2万倍、240万KLだそうです。
「2025年には、現在の2000倍以上となる年25万KLの供給を実現し、1Lあたり200円以下にします。あと4年で必ず実現します」。永田副社長は力を込めてこう話しました。
まず富裕層に使ってもらおう!さらに今回、日本でチャーター機向けにバイオジェット燃料を使えるようにする事業プランも明らかにされました。
千葉さんのようなホンダジェットのオーナーが機体を使わない際に、一般の人へフライトする権利を販売する事業を、Japan Biz Aviation(静岡県牧之原市)が今秋から開始します。その際に、従来燃料を使うか、「サステオ」を使うか、選べるようにするそうです。
これに対し千葉さんは、「どんな技術でも最初は価格が高く、自分のような“ファーストペンギン”がいてこそ一般に普及する」とし、次のように話します。
「チャーター機を使う人(富裕層)は、先進的に新しい技術を取り入れようとする人ですから、こういう燃料を使う意味をわかってくれるはず。サステナブルな飛行機で行く旅行パッケージのようなものも展開できるのでは」(千葉さん)
記者発表ではユーグレナ社のテレビCMに出演する「メイプル超合金」のカズレーザーさんも登場し、搭乗権をかけて永田副社長が出すクイズに答える場面がありました。

機長帽を受け取るカズレーザーさん(中島洋平撮影)。
「今回の鹿児島から羽田までのフライトで排出されたCO2量は?」
答えは「1970.4kg」、およそ2トンです。これはさすがにカズレーザーさんも答えられず、「(CO2削減が)喫緊の問題なんだと改めて感じた」と話しました。
ちなみに、バイオジェット燃料を使ったフライトは、今日までに世界で34万回を超えるのに対し、日本では今回を含めて、たった5回しか行われていないとのこと。「日本は圧倒的に遅れている」(出雲社長)のだそうです。
※脱字を修正しました(6月30日17時50分)。