新幹線の運転士、戦闘機のパイロット、宇宙飛行士など、誰もが一度はあこがれる乗りものの操縦士。しかし、夢を叶えるには多くの壁を乗り越えなければいけません。
1961(昭和36)年にユーリイ・ガガーリンが人類初の宇宙飛行を実現させてから60年、民間人も宇宙旅行を体験できる時代になりました。しかし、たとえばスペースX社(アメリカ)によるISS(国際宇宙ステーション)滞在旅行は、10日間でおよそ5500万ドルと、とても一般人が手出しできる額ではありません。他社による「数分ほど無重力を体験できる小宇宙旅行」でも20万ドル以上かかるとされています。
誰もが簡単に乗れるわけではないからこその「憧れの乗りもの」。とはいえ、操縦を職業にするとなると、さらに厳しい条件が待っています。
乗りもの関連の職業のハードルは高い(画像:航空自衛隊、海上自衛隊、NASA、写真AC)。
●新幹線の運転士
電車の運転士のなかでも花形と呼べる新幹線の運転士。基本的ななり方のケースを調べてみると……まずは動力車操縦者運転免許、なかでも「甲種電気車運転免許」を取得する必要があります。動力車操縦者運転免許の試験は年2回で、科目は身体検査、適性検査、筆記試験、実技試験の4つ。一般の人でも受験可能で合格率は80%と高めだそうですが、通常は鉄道会社の養成所などで教習を受けてから受験するようです。
その後は3年以上、在来線の運転士として経験を積んでようやく、新幹線運転士募集に応募することが可能になります。
●潜水艦の乗員
潜水艦の乗員になるためには、まず海上自衛隊員になる必要があります。潜水艦教育は、日本では広島県呉にある潜水艦教育訓練隊でのみ行われており、条件と適性がマッチすれば海上自衛隊の新隊員課程から4か月ほどで専門教育の過程に進むことができますが、条件や適性が合わなかった場合は水上艦勤務に就きながら、潜水艦乗り組みの希望を出し続けることになります。
座学やシミュレーターなどでの教育、実艦を用いた部隊実習を経て潜水艦乗りの証しである「ドルフィンマーク」を受け取るのに早くても1年ほど、水上艦艇勤務ののちであればそれ以上かかるそうです。しかし艦長を目指すとなると、グッとハードルが上がります。
1年目は幹部候補生として知識の勉強、2年目からは南米やヨーロッパなど10か国以上を巡る遠洋航海の修行、帰国後は水上艦艇での生活・訓練を経なければならず、「ドルフィンマーク」を受け取れるまでに入隊から5年ほどかかるそうです。これでもまだ潜水艦の幹部になっただけで、艦長にはなれません。
艦内の一部門の長を経て、ナンバー2である副長になり、さらに幹部自衛官としての素養教育を受けつつ、ようやく艦長になるための教育(指揮課程)を受けられるのです。そのため、一般大学や防衛大学校を卒業してから潜水艦の艦長になるまでに、一説には17年近くかかるとも。いかに海上・海中での生活が厳しいかを物語っています。
宇宙飛行士への道のりはやっぱり遠かった空の乗りものも、採用にはかなり高いハードルがあります。
●戦闘機のパイロット
こちらも訓練に次ぐ訓練の連続。
たとえば航空学生の場合は、パイロットを目指してひたすら2年間、教育隊で研鑽を積んだのち、飛行準備教育を経て「初等練習機」と呼ばれるプロペラ機での操縦訓練に進みます。その後、ジェット練習機での操縦訓練(前期、後期)で約1年。これでパイロットの証である「ウィングマーク」を取得できますが、その後もジェット練習機での操縦訓練を8週間、F-15などの戦闘機での操縦訓練を30週以上経て、ようやく第一線の戦闘機部隊へ配属されるのです。
そのため、一説には操縦訓練を始めて部隊配属まで3年半~4年ほどかかるといいます。また常に学力や適性で審査され続けるため、戦闘機パイロットに向いていないと判断されれば即コースアウトになります。こちらも一説によると、「ウィングマーク」取得までに3~4割が脱落するといい、さらに「ウィングマーク」取得後も適性などから戦闘機ではなく輸送機や救難機、ヘリコプターなどに回されることも多々あります。
部隊配属後も、定期的に受ける航空身体検査で不備が見つかれば、戦闘機から降りなければならないため、常に第一線で戦闘機を操り続けるのは絶え間ない努力が必要と言えそうです。
●宇宙飛行士
いよいよ最後は宇宙飛行士です。JAXA(宇宙航空研究開発機構)で最近あった宇宙飛行士の募集は2008(平成20)年。応募者963名のうち合格したのはたった2名(2009年9月に1名を追加採用)とかなり狭き門です。その条件を見てみると……まず大学で理学部や工学部など自然科学系の知識を学んだ者であること、そして、その研究や開発など3年以上の実務経験を有することとあります。

ZOZOの前澤友作さんが搭乗予定の「スターシップ」テスト機(画像:スペースX)。
そのほか、水泳で75mが泳げること、また10分間立ち泳ぎが可能なことという体力面の条件もあります。さらには日本人宇宙飛行士としての教養があるか、10年以上JAXAに勤務が可能で、かつ長期間にわたり海外での勤務が可能であること、という条件も。人生を宇宙に捧げる覚悟が求められるといえるでしょう。
JAXAの「宇宙飛行士募集に関する資料集」には、2021年秋頃から民間企業と連携しながら、13年ぶりに新たな宇宙飛行士の募集が開始される予定と書かれています。この難関をくぐり抜け、憧れの宇宙飛行士となるのはどんな人なのでしょうか。