7月1日に就航した「東京九州フェリー」で横須賀~北九州21時間の旅を体験、その詳細をレポートします。船内では様々なアクティビティもあるほか、仕事をするにもうってつけの環境。
2021年7月1日に就航した横須賀~北九州(新門司)の新航路「東京九州フェリー」に7月8日(木)、乗船しました。
当日はあいにくの雨で、晴れた後も強風でオープンデッキが閉鎖されるなど天候はいまひとつ。しかしその揺れは個室「ツーリストS」の中に立てた3本のペットボトルが1度も倒れない程度で、約21時間の航海は順調そのものでした。9時間の睡眠と8時間デスクワーク(原稿執筆と領収書の整理)、残りの約4時間で4回の露天風呂と5回の食事をいただきつつ、船内の各場所でさまざまな時間を過ごしてみました。
新門司港から横須賀港に向かう「それいゆ」とは11時10分ごろ、潮岬沖ですれ違った(宮武和多哉撮影)。
●フォワードサロン(展望室)
5階の最前部、船首を見下ろせるフォワードサロン(展望室)からの眺めは素晴らしく、トビウオや鳥などを頻繁に観察できます。また計測したところほぼ全行程を27ノット(約50km/h)以上で航行しているため、貨物船やコンテナ船、また同じく九州方面に向かう「オーシャン東九フェリー」などの追い越しを眺めることもできます。お子様と一緒に乗船される方は、事前に船舶の位置情報アプリをインストールして「あの船は何をどこに運んでいるか」を自由研究にするのも面白そうです。
●共用スペース
ラウンジ近くの窓際にあるベンチやデスクは、ワーケーション(観光地でのデスクワーク)にうってつけ。過去に乗船した首都圏から北海道や高知、宮崎への航路より遥かに揺れが少なく、快適に過ごせました。ただ陸地から近い場所以外は携帯電話の電波が届かず、船内Wi-Fiも陸地から通信可能な範囲のみとなっているため、仕事する場合、必要なファイルはあらかじめデータ保存して用意しておく必要があります。
船内にはスクリーンルームと呼ばれる部屋もあり、ここではプラネタリウムの投影・鑑賞も行われています。ここに置かれた「人をダメにする」と言われるタイプのビーズクッションが心地良すぎて、星を見る前に熟睡する人も。ほかにもオーシャンビューのスポーツジムが設けられるなど、これまでにない試みが船内には見られます。
客室はどうなっている?客室は、同系列である新日本海フェリーや関係の深いオーシャン東九などの近年の新造船と似たカジュアルな作りで、肩ひじ張らずにゆったり過ごすことができます。
今回利用したツーリストSは、グレードでいえば下から2番目、最もリーズナブルな個室です。少し前の世代のフェリーだと、高級な部屋でもコンセント事情が今ひとつな場合もありますが、東京九州フェリーでは、ルームチャージ制のツーリストSならコンセントが3口(1口はUSB)、かつデスクも枕元近くにあり、近年のビジネスホテルやコワーキングスペースの時流に乗った作りとなっています。なお、プライベート空間が確保されたベッド一つの最安グレードであるツーリストAも、少し高い場所にコンセントがあります。
●食事
5階のレストラン横、オープンデッキで昼間に開催されるバーベキューに、人気が集中していました。太平洋を眺めながら肉・野菜・ビールをガツガツいただく体験は、なかなか味わえるものではありません。また潮風が常時吹き抜けるため、目の前で肉を焼いているのにまったく煙たくないのが不思議な感覚です。

昼食時に提供されるバーベキュー1人前(宮武和多哉撮影)。
レストランの食事は神奈川県や九州のご当地メニューが多く、チキン南蛮はザクっと香ばしく、しらすとマグロの丼は脂が乗り、何より海の上なのに白飯が美味しいのは意外でした。
ただ、オーシャン東九フェリーや津軽海峡フェリーなどに見られるオートレストラン(自動販売機での軽食販売)やゲームセンターにも、捨てがたい魅力があります。
そもそもアクセスは?横須賀、北九州それぞれ寄港地周辺は見どころもあります。
●横須賀新港
・鉄道:京急 横須賀中央駅から1.2km、徒歩約15分
・自家用車:横浜横須賀道路 横須賀ICから5.2km、約15分(本町山中有料道路 本町出口からは1.8km)
出港時刻は、2000年代に存在した横須賀(久里浜)~大分航路「シャトル・ハイウェイライン」の23時10分発より少し遅めですが、駅から港までの距離は久里浜時代より格段に近く、京急本線なら品川を21時過ぎ、横浜なら22時頃に出ても十分に間に合います。
また現在は感染症の影響でひっそりしていますが、本来であれば横須賀は「夕方・夜の過ごし方を選べる」のが町の魅力でもあり、早めに横須賀入りするのも良いでしょう。三笠公園の夕映えを眺めて、1杯飲み屋からジャズバーまで選択肢が幅広い「ドブ板通り」などを巡れば時間はあっという間に過ぎます。なお、フェリーターミナルや併設レストランは20時から営業しているので、そちらでも時間をつぶせます。
自動車で港へ向かう人には、横浜横須賀道路と新港エリアに近い市街地までを結ぶ「本町山中有料道路」が2022年4月から無料化されるため、それ以降はさらに足を運びやすくなるでしょう。
●新門司港
・シャトルバス:小倉駅北口、門司駅よりシャトルバス
・自家用車:九州道 門司ICより6.8km、約15分(上りのみの新門司ICからの下車も可能)

新門司港から門司駅および小倉駅を結ぶシャトルバス(宮武和多哉撮影)。
九州側のターミナルである新門司港は、阪九フェリー、名門大洋フェリーなども発着しますが、東京九州フェリーのターミナルはそれら乗船場からさらに1kmほど離れています。このエリア自体がバスや鉄道から極端に遠い(最寄りの西鉄バス・畑バス停からでも2km前後)ことから、クルマやシャトルバスの利用が現実的です。
クルマやバイクで乗船する場合、門司周辺には時間を潰せそうなお店やライダーハウスもあります。時間が合えば、フェリー関係者が多く利用し、全体的にボリューミーなことで知られる「お食事処・まりん」(阪九フェリーターミナル付近)や、東京九州フェリーのターミナル横にある陸続きの「津村島」に寄るのも良いでしょう。ここでは満潮になると島の中心部に水が流れ込むという、変わった自然現象が見られます。
なお港近くの交差点近辺では、各社のフェリー下船時間に合わせた検問が最近とても多いことを補足します。
21時間1.2万円~ 料金的にはアリなのか?2021年7月1日現在での料金を、さまざまな交通手段も含めて比較してみましょう。
●旅客利用の場合
旅客の利用で最安値のツーリストAは1万2000円ですが、同価格帯の交通手段としては、最安値9000円という思い切ったダイナミックプライシング(価格変動)を導入した高速バス「はかた号」(現在は運休中)や、閑散期は6000~7000円で搭乗できる北九州空港発着の航空便などがあります。しかしこれらは、7・8月には価格が上昇する傾向で、8月でも繁忙期の運賃帯が適用される便が5往復・10便のみ(期間は上下で異なる)のフェリーは貴重な存在と言えるでしょう。
個室利用の場合は、ツーリストSからデラックスまで、ルームチャージ制で6000~4万8000円が旅客運賃(ツーリストA)にプラスされます。他のフェリーでたまに見られる「1名の利用で2・3名定員の部屋貸切」には料金の壁が高く、全体的に割引施策もない状態ですが、いずれはネット予約割引なども期待したいところです。
●自動車
東京九州フェリーは自動車を積載できる台数が30台と、他の長距離航路より少なめに設定されています。普通車(5m以下)の航送運賃は4万円(運転手1名分のツーリストA料金含む)、これにルームチャージがプラスされると安くはありませんが、乗船日は両港ともに多くの自家用車が並んでいたところからすると、台数的に狭き門かもしれません。
●バイク・輪行
バイクは750ccで1万2000円、輪行自転車は3600円で運べ、これに旅客運賃がプラスされます。

船の入港から出港までの3時間ほどで、スタッフが一気に清掃を済ませる。新門司港にて(宮武和多哉撮影)。
※ ※ ※
就航間もない東京九州フェリーは、従業員も慣れていない様子が窺える場面もあったものの、洋上で一生懸命に仕事をしている様子が印象的でした。港で働く人々が、フェリーの着岸に関する業務をOJT(業務を行いながらの研修)で教わっている様子も見られました。よって、オペレーションの成熟は、まだまだこれからと言えそうです。
※一部修正しました(7月14日17時10分)。