京阪神と紀伊半島を結ぶ夜行列車「新宮夜行」が2021年、形を変えて約20年ぶりに復活。「昭和の新宮夜行」に乗ったことがある記者が「令和の新宮夜行」に乗車したところ、思うところ、考えるところが色々ありました。

20世紀で運行を終えた往時の「新宮夜行」

 京阪神から紀伊半島へ走った夜行普通列車、通称「新宮夜行」が2021年7月16日(金)、特急「WEST EXPRESS 銀河」に形を変えて復活しました。京都を21時15分に発車し、新大阪、天王寺、日根野、和歌山と停車。熊野川の河口、和歌山・三重県境にある終点の新宮へは、翌朝9時37分の到着です。

 夜行普通列車の「新宮夜行」は、1999(平成11)年に定期運行を終了。臨時運行も2000(平成12)年に終えました。

「昭和の新宮夜行」「令和の新宮夜行」 両方に乗ってみた 天王...の画像はこちら >>

「昭和の新宮夜行」に使用された165系急行形電車の同型車(1989年、恵 知仁撮影)。

 定期運行終了時のダイヤは、新大阪発22時45分、新宮着5時10分(新宮行きのみの運転)。早朝から紀伊半島南部で釣りを楽しむ人にも利用されたことから、「太公望列車」という呼び方もされています。

 1984(昭和59)年まではB寝台車(三段式)を連結。「はやたま」という正式な列車名を持ち、亀山~天王寺間を紀伊半島の外周へ沿うように走っていました。さらに昔には名古屋駅、南海難波駅発着だったこともあります。

 筆者(恵 知仁:鉄道ライター)は1987(昭和62)年12月、「新宮夜行」に乗ったことがあり、この2021年7月3日(土)には、ひとあし早く報道向けに公開された新宮行き夜行特急「WEST EXPRESS 銀河」にも乗車できたのですが、そこでは色々と思い出したこと、考えたことがありました。

始発の天王寺駅ホームで3時間並んだ中学生

「昭和の新宮夜行」には中学1年生のとき、一人旅で乗りました。1987(昭和62)年12月30日の繁忙期で、列車は全車自由席。座席を確保すべく3時間ぐらい前から、当時の始発駅だった天王寺駅ホームで並んだ記憶があります。

 無事、進行方向窓側の座席を確保できたのですが、満席です。23時00分発の天王寺から5時01分着の終点新宮まで、リクライニングしないボックスシートの奥で身動きできませんでした。車両は165系急行形電車です。

 それから三十有余年が過ぎ40代になった現在、当時のことはとても懐かしいですけども、その列車にまた乗りたいとは正直、あまり思いません。体力的に。ボックスを1人で占有できるなら、考えなくはないですが……。

「昭和の新宮夜行」「令和の新宮夜行」 両方に乗ってみた 天王寺駅で並んだ3時間

「令和の新宮夜行」で利用したクシェット(2021年7月3日、恵 知仁撮影)。

 2021年7月、「令和の新宮夜行」――夜行特急「WEST EXPRESS 銀河」のクシェット(かんたんに言うと寝具なしのベッド。普通車指定席扱い)で寝転びながら、そんなことを思いだし、考えてしまいました。

「令和の新宮夜行」車内で育った「違和感」

「WEST EXPRESS 銀河」はクシェットのほか、寝転べるグリーン個室、かつてのA寝台車のように横になれるグリーン車指定席を備えるほか、座席の普通車指定席もありますが、一般的な特急車両より余裕があるリクライニングシートです。フリースペースも編成各所にあります。

 また深夜の和歌山駅では、駅前の店舗で夜食のラーメンが用意され、朝を迎えた串本駅では、地元の海の幸を使った「漁師の朝ごはん」が用意されました。

 令和になって、新宮行き「WEST EXPRESS 銀河」が運転を開始するにあたり、「『新宮夜行』復活」と自ら記事で表現したこともありました。

 しかし実際にその「令和の新宮夜行」へ乗ってみると――乗らなくても分かることではありますが――「復活」という表現に対する違和感が、至れり尽くせりで快適な車内で育っていきました。

「昭和の新宮夜行」「令和の新宮夜行」 両方に乗ってみた 天王寺駅で並んだ3時間

「令和の新宮夜行」初島駅付近で見えたコンビナートの夜景(2021年7月4日、恵 知仁撮影)。

 とはいえ、「昭和の新宮夜行」をネガティブに思っているわけではありません。

 車内設備などについては「それが普通」の時代でしたし、今回、「令和の新宮夜行」で和歌山駅を午前1時に発車したのち、初島駅付近でやや下のほうに見えたコンビナートの夜景に、かつて「銀河鉄道」のようだと感じたことを思い出し懐かしむなど、「新旧新宮夜行の時間旅行」を楽しむことができました。そして昭和から令和、「鉄道旅行の進化」を感じることができました。

「昭和の新宮夜行」また体験したいぐらい良かったことも

 また「昭和の新宮夜行」で、また体験したいぐらい良かったこともあります。

 終点の新宮駅に12月31日の朝5時01分に到着すると、寒風が吹くホームで湯気が盛んにあがっていました。到着を迎えるように、ホームの駅立ち食いそば店が営業していたのです。

ボックスシートで一晩じっと過ごした人たちが大勢集まり、生気を取り戻していきます。

「昭和の新宮夜行」「令和の新宮夜行」 両方に乗ってみた 天王寺駅で並んだ3時間

現在の新宮駅ホーム。かつてここに立食いそば店などがあった(2021年7月4日、恵 知仁撮影)。

「令和の新宮夜行」でも、新宮駅では地元の人々が出迎えてくれ、日本酒の振る舞いが行われます。どちらがいいではなく、昔は昔でそういう形の旅情がありました。

 あと「令和の新宮夜行」でも乗車中、つらかったことがありました。

 列車や車両、サービスとは無関係で、多分に個人的な要因が含まれることですが、7月頭とはいえ始発の京都駅も、ラーメンが用意された和歌山駅も蒸し暑く、それに由来する不快感に朝までつきまとわれました。6時04分に到着し食事と観光へ行った串本で、コンビニに寄ってボディーシートを購入したほど。終点の新宮到着後、真っ先に風呂へ向かった取材者もいました。

 この夏、「令和の新宮夜行」へ乗る人には、暑さや汗に対する備えをオススメします。

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