世界の空港でもっともよく見る旅客機といえば、米国ボーイング社の「737」と欧州エアバス社の「A320」の2機種でしょう。これらはなぜ人気機種となったのでしょうか。
アメリカ製のボーイング社が開発した「737」と、ヨーロッパ共同開発のエアバス社の「A320」、この2モデルは、気温の低い地域から過酷な熱帯地方まで、まさに世界中どこの国でも見られる圧倒的なベストセラー旅客機です。
2モデルとも、機体の形状としては、胴体の下に左右に延びる主翼で機体を空中に持ち上げ、その下にエンジンを2基搭載し、後方に垂直尾翼と水平尾翼を配置。機首下に前脚、主翼下左右に主脚を装備しています。客室の仕様はともに横3-3列で、パイロットは2人乗務。まさに、「子供がジェット旅客機の絵を描いたらこの形状になる」ような、一般的、かつ理想的な形状といえるのかもしれません。
手前がANAのA320、奥がJALのボーイング737(乗りものニュース編集部撮影)。
先に航空業界にデビューしたのは、ボーイング737です。その初期タイプの初飛行はいまから半世紀以上前の1967(昭和42)年。そもそもはアメリカ国内線での使用を前提に設計した旅客機で、胴体は、商業的に成功を収めたボーイング社初のジェット旅客機「707」を流用し設計が進められました。運用開始は1968(昭和43)年、ドイツのルフトハンザ航空でした。
その後、737はエンジンを効率の良いターボファン・エンジンに交換するなどの改修を施した第2世代「クラシック」をデビューさせます。
その後ボーイング社もA320に対抗するため、様々な分野にコンピューターをより広い分野に組み込み、コクピットを大きく先進化させた「737NG(ネクスト・ジェネレーション)」を開発し、1997(平成9)年にサウスウェスト航空で就航させます。この世代のサブタイプのひとつが、「737-800」。現在の日本国内の空港において、ダントツでよく見かける旅客機です。
737シリーズは現在最新の派生型である「737MAX」が2017(平成29)年から就航していますが、2021年現在国内航空会社での採用はありません。ちなみに、737クラシックからMAXまでの見た目の差はほとんど無く、見分けるのに相当苦労します。
A320は打倒「米国旅客機」だった? その特徴737シリーズが大成功を収めたボーイングに対し、ヨーロッパが打ち出した「エアバスA320」は、アメリカの航空機メーカーへのヨーロッパからの非常に強い対抗心が見て取れる旅客機といえるでしょう。
A320が世に出る前のジェット旅客機の開発においても、欧州では、アメリカのメーカーに対抗するようなモデルを次々に開発しています。アメリカのボーイング707やダグラスDC-8に対する四発ジェット旅客機が、ヴィッカースVC-10で、ボーイング727やダグラスDC-9に対する短距離向け旅客機が、トライデント、カラベル、ダッソー・メルキュールといったところが代表的なものでしょうか。ちなみにエアバス社初の旅客機「A300」も、B747、ロッキードL-1011、ダグラスDC-10など米国の旅客機に対抗したものでしょう。

ピーチのエアバスA320(乗りものニュース編集部撮影)。
エアバス・インダストリー社は1970(昭和45)年に設立。それまでヨーロッパの航空機製造企業は各国にいくつもありましたが、それらが統合されたり消滅したりするなかで、ヨーロッパ共同旅客機メーカーとして生まれます。先述のA300を皮切りに、A310が続き、3モデル目として開発されたのがA320でした。
ヨーロッパ製の旅客機には、早い段階から航空管制の発達に対応できる装備が自然と備え付けられてきました。たとえばホーカー・シドレー「トライデント」などは、世界で初めて自動操縦による着陸が認可された機体です。これは、視界の悪い天候を持つヨーロッパの航空市場に合わせ発達した技術なのかもしれません。
このような“欧州製旅客機らしさ”は、A320にも引き継がれました。A320は操縦システムとして、旅客機として世界初となるフライ・バイ・ワイヤが本格導入。それまで油圧が一般的だった旅客機の操舵が電気信号に置き換えられたほか、高度な操縦の自動化システムや液晶画面が並ぶグラスコクピットが採用されたのです。現代では一般的なコクピット・レイアウトですが、1980年代当時、ライバル機であるボーイング737は、アナログ計器が並ぶ「737クラシック」全盛の時代です。
その後、A320は空前のメガヒット旅客機となり、いくつも派生型が誕生。
このようにしのぎを削ってきたボーイング737とエアバスA320ですが、多くの航空会社がどちらか、もしくはその両方のモデルを導入しています。
面白いのは、ヨーロッパの航空会社でも、A320ではなく737を選択する傾向も見られることです。たとえば、アイルランドの超巨大LCC(格安航空会社)であるライアン・エアをはじめ、トルコのターキッシュエアラインズ、アイスランド航空などが該当します。エアラインの機種選定は、それまで構築してきた航空機メーカーとの関係性はもちろん、運用コストやキャパシティなど、さまざまな要素が勘案されていることがうかがえます。

アラスカ航空のボーイング737MAX(乗りものニュース編集部撮影)。
わが国では、2021年現在、ボーイング737をJAL(日本航空)、ANA(全日空)のほかAIRDOなどの後進系の航空会社がおもに使用。エアバスA320はANAが初めて導入し、後進系ではスターフライヤーが導入しました。近年、LCC(格安航空会社)の進出にともない、ジェットスター・ジャパンやピーチがA320を主力機に据えたことで、ますますその活躍の場を広げつつあります。
余談ですが元来、国内航空会社では、それぞれ導入する航空機メーカーがくっきり分かれていましたが、その方針は徐々に緩和しつつあるように思われます。
JALが、伝統的にボーイング社やダグラス社といったアメリカの老舗メーカーの機体を採用する一方で、ANA(全日空)はボーイング社のほか、エアバス社やロッキード社製など、バラエティに富んだメーカーの機体を使用していました。
一方、TDA(東亜国内航空)時代のJAS(日本エアシステム。現JAL)は、1980年代に国内で初めてエアバス社の旅客機を導入し、親密な関係を築いていました。一方で、アメリカ製の旅客機としてはダグラス社からDC-9系、DC-10を導入し、主力機に据えました。
話は737とA320に戻りますが、両機は機体のザイズや用途もよく似ており、空港に着陸してくる角度によっては、ぱっと見、同じようにみえてしまうなんてことも珍しくありません。両機ともに、これからも日本、世界の空になくてはならない存在であることでしょう。