一定台数以上のクルマを仕事で使う事業所にも、運輸や物流業と同様の「点呼」「アルコールチェック」を義務付けることを盛り込んだ道路交通法施行規則の改正案が国家公安委員会で了解されました。影響はあらゆる業種に及びそうです。

緑ナンバー業種と同様の「点呼」などを全ての業種に

 国家公安委員会は2021年9月2日(木)、警察庁から提示された道路交通法施行規則の一部を改正することを了解しました。法人をはじめとする団体が、自動車を一定台数保有する場合に、負うべき運行管理の規制が強化されます。

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一定台数以上の白ナンバー営業車などを保有する事業者へ、点呼やアルコールチェックが義務化される(画像:写真AC)。

 いわゆる「緑ナンバー」の運送業などではない、「白ナンバー」車の運転責任は、運転者だけにあると思われがちですが、所有者である企業や団体にも及ぶ場合があります。道交法は、乗用車なら5台以上を保有する団体などを「安全運転管理者選任事業所」と規定して、団体のトップが安全運転管理者を選任、営業回りなどで運転をする人に交通安全教育を実施し、運行管理をしなければならないと定めています。今回の施行規則の改正は、この安全運転管理者のすべきことを追加し、飲酒運転の根絶につなげる目的があります。

 企業や団体へ新たに追加される業務は次のとおりです。

・安全運転管理者は、社員が運転した前後に酒気帯びの有無を目視で確認する。
・さらに、アルコール検知器を使って確認する。
・確認した記録を帳簿やデジタルデータで1年間保存する。
・いつでも正常に機能するアルコール検知器を備える。

 安全運転管理者は、運行管理の講習を受けた、いわゆる資格者です。

管理者は現行規則でも、車両点検のほか、運転する社員が、飲酒、過労、病気など運転に支障がないかを確認しなければなりませんでしたが、今回の改正では、その確認方法が具体的に定められました。

 改正に対応するためには、管理者が運転する人と対面して点呼するなどの時間が必要になります。トラックで物資を運ぶ、バスで従業員を送迎する場合に限らず、一定台数を保有するあらゆる企業・団体で実施が必要です。

 従来のように朝礼の時間についでに顔色を見るだけでは管理者の業務を果たしたことにはならない。これが、改正前との大きな違いです。

実施しないことに、罰則は定めず

 一方で、安全運転管理者が、上記のような対策をしなくても、これまで同様に、実施しないこと自体に罰則は設けられませんでした。

 宅配便のように有償で荷物を運ぶ緑ナンバーでは事業者に対して、かなり厳しい運行管理が求められています。安全運転管理者に相当する運行管理者が点呼を実施しないだけで、車両を使用できなくなる、という罰則があります。また、緑ナンバーの運送事業者を監督する国土交通省は地方支局を通じて監査を行い、点呼の実施状況を調べて、未然に事故を防ぐ取り組みをしています。

 しかし、白ナンバー車両の運転は、それ自体がビジネスではないので、企業・団体にそこまでの義務を負わせるべきか、という判断がありました。安全運転の義務は運転者自身にある、という原則に立った道交法の規定であることも考慮されています。

 改正案に罰則が盛り込まれていなくても、事故が発生すると、運転者と共に安全管理者を含めた企業責任が問われます。

白ナンバーの企業・団体は、緑ナンバーより自立的に運行管理を考えなければなりません。

営業車も点呼・アルコール検査義務に 白ナンバー業務車の「責任」法令改正で厳格化へ

点呼に新型コロナ感染対策を取り入れ、運転者の体温チェックをする都内タクシー会社。2020年2月、赤羽国交相の視察で(中島みなみ撮影)。

 ただ、規制強化のきっかけとなった千葉県八街市の児童死傷事故(2021年6月28日)について振り返ると、事故車両は白ナンバーでした。厳格な飲酒点呼などの義務はありませんでしたが、社員が命じられた業務は、緑ナンバーの運送業と実質的に同じ行為でした。こうした矛盾を、どう受け止めるべきでしょうか。

 国家公安委員会で了承された今回の規則改正案について、警察庁はパブリックコメントを求めています。運行管理をする立場、事故被害者の立場、改正案の評価が反映される機会です。意見の提出期間は9月3日(金)~10月2日(土)まで。警察庁への郵送、ファックス、インターネットでは電子政府のパブリックコメント意見提出フォームや電子メールで受け付けています。

 改正案施行は2022年4月1日を予定しています。

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