某テレビ番組みたいな取り組みですが、そのウラは?
第一次産業拡大が航空業界の収益増へ…なぜ?とある航空会社の支店が全力を傾けるのは「みかんの栽培」――あまりにも航空や旅行事業を行う会社としてはかけ離れた取り組みが始まりました。ただ、もちろんこれには、それ相応の理由や戦略があります。
四国の愛媛県・松山に「ANA農園」があります。企画したのは、ANA(全日空)グループで地域創生などを手掛ける「ANAあきんど」。パートナーは松山空港名物「蛇口から出るみかんジュース」の店舗も運営する石丸農園(松山市堀江町)です。
松山空港を出発するANA機(2021年10月、乗りものニュース編集部撮影)。
現在みかん農家をはじめとする第一次産業では、労働人口の減少、高齢化が進行しています。このことで増えているのが、耕作が放棄された「廃園」です。
ANAあきんど松山支店では、廃園をしない仕組みを構築すべく「ANA農園プロジェクト」を全国に先んじて、2021年4月から始動しました。その陣頭指揮を取るのが、ANA・ANAあきんどの松山支店長の谷山 章氏です。
もちろんANAあきんどが「ANA農園プロジェジェクト」を実施するのには、理由があります。
同社は「一次産業が活性化すると、貨物需要が増え、交流人口も拡大。よって、最終的に旅客便の需要が増え、本業である航空収入も拡大する」と期待される効果について説明しています。また新型コロナウイルス感染拡大下において、ANAグループとしても非航空需要の拡大が急務。
では、谷山支店長が陣頭指揮をとる「愛媛のみかん」のプロジェクトは、どのような作戦なのでしょうか。
ANAあきんどでは、石丸農園が保有している廃園を「ANA農園」とし、高級かんきつの苗を植えます。育てられたみかんなどの柑橘類は数年後に、ANAブランドとして収穫し販売する予定です。現在、それに向け3つの区画が「ANA農園」として整備され、うち1区画は、すでに苗が植えられている状態です。

ANA・ANAあきんど松山支店長 谷山 章氏(2021年10月、乗りものニュース編集部撮影)。
また、ANAグループならではの「航空会社パワー」も存分に発揮されます。現在「ANA農園」には、CA(客室乗務員)も務める同社のスタッフが常駐。ANAの販売チャネルを活用した販路拡大やブランディング、ツアーにかかる事務作業を行います。
このほか、近々にも国内線プレミアムクラスの機内食にも、石丸農園で育てられたみかんが使用される予定とのこと。そのほか、みかんの皮などの産業廃棄物を利用した新規商品(コスメ関連など)の開発なども計画しているといいます。
そしてこのプロジェクトでは、ふるさと納税の返礼品として、農園内の木の”所有権”をプレゼントするという取り組みも始めています。
今後ANAあきんど松山支店では、ふるさと納税対象者をターゲットに「自分のみかんの木」を収穫する体験ツアーやワーケーションなどを造成し販売することも計画しているとのこと。最終的には、廃園や人手不足の改善、旅行商品や物販でANAグループの収益向上も狙えるほか、愛媛県の増収にもつながる――といった「三方よし」の新ビジネスとする狙いがありそうです。