かつて実用化された「コンコルド」をはじめ、開発が持ち上がっているものに至るまで、超音速旅客機は、脚が長く、腰高なデザインが特徴です。「怪鳥」とも呼ばれるフォルムには、超ハイスピード巡航ゆえの理由があります。

ポイントは離着陸時?

「超音速旅客機(SST)」といえば世界初の実用超音速旅客機「コンコルド(Concorde。コンコードとも)」があまりに有名ですが、このほか「コンコルドスキー」と呼ばれたツポレフTu-144が実際に空を飛び、頓挫こそしたもののボーイング2707、ロッキードL-2000などが計画されるなど、各社がその開発競争を繰り広げていた時代がありました。

「コンコルド」はなぜ超長い脚を持つ“怪鳥”に?超音速旅客機が...の画像はこちら >>

フランス・トゥールーズに展示されている「コンコルド」(乗りものニュース編集部撮影)。

 そして2021年現在、米・ブームテクノロジーの「オーバーチュア」をはじめ、超音速旅客機を再び飛ばそうという機運が、再度高まっています。ただこれらの機体には、どれも共通点があります。どの機体も、やたら脚が長く「腰高」なことを始め、胴体設計の共通点が著しく多いのです。

 通常、旅客機では、胴体をできるだけ低くする傾向があります。それにより、もろもろのコスト、そして車輪の取付軸の長さを抑え、重量を減らすのが一般的です。

 超音速旅客機の胴体の高さは、コストや重量に無駄な面があるようにも思われますが、もちろん、これにはれっきとした理由があります。

「コンコルド」の着陸や離陸は、一般的な旅客機と比べて大きな違いがあります。まだ十分なスピードを出せていない離着陸時には、超音速旅客機は、他の旅客機と違って、機首を大きく上げた姿勢を取る必要があるのです。長い脚は、とくに離陸時に大きく機首を上げた姿勢をとっても、胴体後部を擦ってしまわないように――という対策です。

ちなみに、「コンコルド」の機体の最後尾も、尻もち対策の一環で後上方に反り返っています。

 ではなぜ、超音速旅客機は離着陸時、大きく機首を上げる必要があるのでしょうか。

なぜ腰高にしなければいけないほど機首上げなのか

 超音速飛行のために大切なポイントは、翼の形状(平面形)です。

 超音速飛行では、亜音速(音速に届かない程度の速度)で飛ぶ旅客機で一般的な後退翼より、両翼で平面的な三角形を描くような「デルタ翼」が有利とされています。この翼型は高速飛行時、空力的に抵抗が少なく安定感もあるほか、強度も確保できることから、昨今の新しい超音速旅客機でもスタンダードです。その一方でデルタ翼は、離陸や着陸などの低速飛行時、空力性能上、機首を大きく上向きにしないと、飛行に必要な空気の力を十分に発生させることができず、安全な飛行が難しくなってしまうのです。

「コンコルド」はなぜ超長い脚を持つ“怪鳥”に?超音速旅客機が似た形になるワケ

ユナイテッド航空仕様の「オーバーチュア」のイメージ(画像:Boom Technology)。

 なお、腰高となっている部分でも、超音速旅客機のルックスには多くの共通点があります。

 超音速旅客機では機体全体の空気抵抗の関係から、デルタ翼の下にエンジンを搭載している場合が多いです。また、デルタ翼の場合には、主翼後部の動翼「エレボン」が垂直方向の安定を図る水平尾翼の役割も果たします。そのため超音速旅客機では水平尾翼がないのが一般的です。このほか、機首と同様に空気抵抗の観点から、テイルコーンも尖がっていることが多いです。

 さて、筆者(種山雅夫、元航空科学博物館展示部長 学芸員)は関西空港開港2日目に「コンコルド」の離着陸を見たのが自慢です。離陸時の轟音と振動には胸躍らされました。

 新世代の超音速旅客機は、環境性能の良さもアピールポイントのひとつとしていますが、実際に飛ぶのか、飛んだときにどう空港側がオペレーションするのかが楽しみです。ちなみに、英・ヒースローや仏・シャルル・ド・ゴール、米・JFK空港ではコンコルド専用のスポット(駐機場)を使用し、それ以外の空港では「沖留め」が多かったようです。ウワサでは、着陸することのなかった成田空港にも、「コンコルド」に対応可能なスポットがあったとか、なかったとか。

【映像】なんちゅう角度! コンコルドの上向き着陸シーン (71秒)
編集部おすすめ