JR九州の観光列車「或る列車」が、スーツコースからコース料理に生まれ変わりました。営業運行の練習を兼ねたその列車を取材したところ、料理のレベルの高さを証明するかのような時間が待っていました。
「車内でスイーツコースを楽しみながら旅ができる列車」として2015年に登場したJR九州のD&S列車(観光列車)「或る列車」が、2021年11月、「コース料理を楽しみながら旅ができる列車」に生まれ変わりました。運転区間は、博多~由布院間です。
JR九州の観光列車「或る列車」(2021年10月、恵 知仁撮影)。
料理の監修は、スイーツコース時代と同様、2019年のG20大阪サミット首脳晩餐会の料理も担当した東京・南青山の名店「NARISAWA」オーナーシェフ、成澤由浩さんです。
スイーツで腕を振るったシェフが、こんどはどんな料理で魅せてくれるのか――とても楽しみにして2021年10月、営業開始前の訓練を兼ねて運行された報道向けの「或る列車」試乗会に参加しました。
このときの取材で一番印象に残ったのは、やはり「料理」に関することでした。
乗客へのコース料理提供が一段落したのち、JR九州が、乗車していた成澤シェフにインタビューする機会を設けてくれたのですが、その、取材陣がゾロゾロと成澤シェフの元へ向かったときです。
話しかけられる雰囲気ではありませんでした。
特急「みどり」で運ばれる・移動する熱いものを込めるように、調理を担当した料理人たちを指導する成澤シェフ。真剣なまなざしで、話を聞く料理人たち。
そんなミーティングの時間が5分、10分ほど続いたでしょうか。なるほど、美味しかったわけです。

料理を手際よく準備していく(2021年10月、恵 知仁撮影)。
「料理人たちには、東京にも来てもらって、指導しました。また月に1度、我々のスタッフが九州に行って、指導しています。彼らは本当に努力家です。揺れる列車のなかで、高い料理技術を発揮していて、とても素晴らしいです。先ほどのミーティングは微調整です。ちょっとしたことで変わってしまいますので」(成澤由浩シェフ)
ちなみに「或る列車」で成澤シェフ監修のもと腕を振るっている料理人は、「JR九州ハウステンボスホテル」の料理人とのこと。
「或る列車」運転日には、ハウステンボスで料理の下ごしらえを行ったのち、それと一緒に特急「みどり」に乗って、博多まで来るそうです。
「或る列車」は、おもに金曜日から月曜日までの運転。旅行代金は、大人2万9000円からです(お酒を含めて一部を除きフリードリンク)。
……「或る列車」、実はお得かもしれません。
飛行機やレストランでは無理なのですちなみに取材時のメニューは、次の通りです。
・前菜
「熊本県 車海老と佐賀県 みつせ鶏のカクテルサラダ、鹿児島県 樽熟黒酢の香り」
・スープ
「大分県 サワラ、ヒオウギ貝、ムール貝の鹿児島県枕崎の鰹節の出汁仕立て、宮崎県 NARISAWAキャビアとともに」
・メイン料理・パン
「九州黒毛和牛のイチボのステーキ、福岡県 木の子とカラフルな冬野菜たち」
・スイーツ
「熊本産やまえ栗の阿蘇山と鹿児島県シングルモルトウィスキーの雲海」
・ミニスイーツ
「佐賀県 温州みかんのタルト」「福岡県 りんご飴、鹿児島県 カルヴァドスの香り」「福岡県 玄米茶とチョコレートの松ぼっくり」

「或る列車」の料理を監修する成澤シェフ(2021年10月、恵 知仁撮影)。
成澤シェフによると、「九州の食材」と「季節感」にとことんこだわったそうです。
「車窓から見える風景、そこに見える景色の現場で採れるものが、お皿にのっています。飛行機やレストランでは無理なことであり、それが可能なのが『或る列車』のすばらしいところです」(成澤由浩シェフ)