山手線などでも新システムの導入で「ワンマン運転」が導入される見込みです。優れたテクノロジーを用いて実際の運航に携わる人員を減らすという取り組みは、旅客機の世界でも同様。

では、こちらでは「ワンマン運航」の日は来るのでしょうか。

運航人員が減ったのは航空業界も同じ?

 JR東日本が山手線など首都圏の路線で、運転士1人で運行する「ワンマン運転」を目指す方針であることが新聞各社で報じられています。最速で4年後の実現を目指すとされています。ところで、旅客機の分野で「ワンマン運航」は可能なのでしょうか。

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キャセイパシフィック航空のエアバスA350。同社は「ワンマン運航」を推進したことがある(乗りものニュース編集部撮影)。

 優れたテクノロジーを用いて実際の運行(運航)に携わる人員を減らすという取り組みは、鉄道だけに限りません。現在はパイロット2名での運航が一般的となっている旅客機の世界でも、ゆくゆくはパイロット1人による「ワンマン運航」を導入しようという案は、航空機メーカーなどによりこれまでも検討されてきました。ただ、そのたびに“まだまだ先のハナシ”と結論付けられてきたように思われます。

 一方でこれまでの歴史を振り返ると、旅客機はコクピット内の人数が年を追うごとに減ってきた乗りものです。

 ジェット旅客機の誕生前、ダグラス社のDC-6BやDC-7C、ボーイング社の377ストラトクルーザー、ロッキード社の「コンステレーション」などプロペラ旅客機の時代には、長距離の場合、コクピットには5人もの人員が常駐していました。機長、副操縦士、航空機関士、航法士、通信士です。

 その後、通信手段がモールス信号から音声無線に進化し、航法装置が星の位置から自機の場所を測る天測航法から電波を利用したものへと進化したことで、操縦士のふたりが、通信士と航法士、それぞれを兼務するようになりました。

5人からどうやって2人に?

 ジェット旅客機の全盛期、「クラシック・ジャンボ」と呼ばれたボーイング747(-300までの在来型)、ダグラス社のDC-10、ロッキード社のL-1011「トライスター」、エアバス社のA300Bなどは機長、副操縦士、そして航空機関士の3人乗務でした。

 一方でほぼ同時期には、ボーイング737といったよりサイズの小さな旅客機では、すでに航空機関士を必要としない2人乗務タイプのものも誕生しはじめていました。

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ブリティッシュ・エアウェイズのボーイング747-400(画像:ブリティッシュ・エアウェイズ)。

 その後、2人乗務はボーイング767でも採用され、そして「ハイテク・ジャンボ」ボーイング747-400もこれにならいます。ついに、長距離国際線を飛ぶような大型の旅客機で、2人乗務が本格的に導入されるようになったのです。

 747-400は、機体形状はほぼそのままに、エンジンの更新だけでなく、先進的なコンピューター・システムの導入によって、2人乗務を可能としたのです。ちなみに、この時航空機関士だった方の中には、パイロットへ転職された方もいらっしゃいました。

 そして現代では、ボーイング社の787や、エアバス社のA350をはじめとして、旅客機の2人乗務は、路線や機種に関わらずほとんどデフォルトとなっています。747-400の時代と比べてもコクピットのコンピューター技術も大幅に進化しており、1人でも飛ばせるのではないかという人もなかにはいます。

パイロット2人がいまのところベスト?

 ただ一方で、旅客機が高い安全性を誇っているのは、パイロットが2人で協力して業務にあたっているからこそともいえます。

 たとえば、コクピットの機長・副操縦士の人間関係は、地上の一般的な会社で見られるような上司・部下とは少し異なる、先進的なものといえるでしょう。

「クルー・リソース・マネジメント」と呼ばれるこの取り組みも、安全性向上のための策のひとつです。

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JALのエアバスA350-900のコクピット(2019年、乗りものニュース編集部撮影)。

 旅客機の運航は「チームプレイ」といわれます。機内では、最終的な決定権こそ機長が持っていますが、機長は副操縦士などの意見に耳を傾けながら意思決定をすること、副操縦士は不安や気付きを積極的に機長へ進言することなどが訓練の一環で取り入れられています。

 これは、2人で相互に協力しながら機体を飛ばし、有事があれば「3人目のパイロット」ともいえるコンピューターも含めた“チームプレイ”で問題を解決していくという考え方に基づいています。

 極論をいってしまうと、ハイテク旅客機の運航は、特に運航に支障がない平常時の巡航であれば、1人で実施することは十分可能だと思います。ただこれからも、一瞬の判断がその後の運命を分ける状況も絶対に発生しないとは言い切れません。少なくともあらゆる可能性を考慮した画期的なコンピューター・システムが出ない限り、1人乗務よりも、訓練を受けたパイロットとコンピューターがスクラムを組むほうが、困難を解決できる可能性ははるかに高いといえるでしょう。

 話を冒頭に戻すとJR東日本の「ワンマン運転」のケースは、安全確保が課題なのだそう。あそこまで利用者の多い路線だと、車内トラブルでも、運転士が列車の動きを制御し、車掌が車内の様子を把握する――という“チームプレイ”を原則としたほうが、乗る側としてはなんとなく安心な気もしてしまいます。

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