1990年代に自賠責保険の運用益を一般財源に繰り入れた財務省と、その返済を求める国土交通省との交渉が大詰めを迎えています。交通事故被害者の救済などに使われるはずの、未返済分6013億円のしわ寄せは、自動車ユーザーが被ることになるのでしょうか。
予算案作成を前に、自動車ユーザーの保険料運用益を一般会計に貸し出した6013億円の行方が、国会でも議論されています。12月17日(金)の参議院予算委員会では、この問題について岸田文雄首相が言及しました。極めて異例のことです。
斉藤鉄夫国交相(左)と鈴木俊一財務相(中島みなみ撮影)。
「交通事故被害者のみなさんの支援を安定的継続的に行うという観点から(繰り戻しは)大変重要である。より前向きに現実的に国土交通省、財務省両省でしっかり調整をさせたいと思う」
自動車賠償責任保険の運用益の一般会計への繰り入れ(=貸出)は、いまだ6013億円(2021年度末見込み)の繰り戻し(=返済)が実行されていません。27年前の“借金”は数年ごとに国土交通大臣と財務大臣の間の「大臣間合意」で返済計画が組み直されてきました。来年度は返済最終期限。予算案に全額返済が盛り込まれなければ、新しい合意を取り交わしてリスケジュールしなければなりません。
予算委員会で質問に立った浜口 誠参議(国民民主党・新緑風会)は、質問の趣旨をこう説明します。
「今回のポイントは新しい大臣間合意にどういう内容が盛り込まれるのか。来年度の繰り戻し額がどこまで増額されるのか。
交渉の真っただ中にある現時点で、両省の発言は慎重です。鈴木俊一財務相は「一般会計の財政事情を踏まえつつ」と、返済繰り延べの理由にしてきた従来からの主張を繰り返しつつ、麻生前大臣の就任時から盛り込まれた「事故被害者とご家族が不安なく将来の生活を過ごせるようにするという観点」を取り入れつつも、増額の意思は示しませんでした。
大臣間合意に返済計画は盛り込まれるのか 結局しわ寄せは国民に?斉藤鉄夫国交相は例年の内容から一歩踏み込んで「返済計画ロードマップを明確にして、合意期間中の繰り戻しの継続、目安の提示ができるように財務省としっかり協議していきたい」と答弁。返済の見通しを求めましたが、同じく返済額については触れませんでした。
これまで国交省は貸付額6013億円を翌年度にも返済してほしいという立場から、財務省に対して毎年度の返済額を具体的に示さず返済を求める「事項要求」という形で決着を図ってきました。しかし、結果的にこの姿勢が、財務省の「一般会計の財政事情を踏まえ」、先の見えない繰り延べにつながってきました。
自動車ユーザーが保険料として負担し、交通事故被害者の救済に使われるべき事故対策事業は124億円(2021年度予算)でしたが、財務省の返済額は47億円。不足分の77億円は事業資金となる積立金を取り崩しています。

浜口 誠参議(中島みなみ撮影)。
前出の浜口参議は、被害者と家族の意見を代弁します。
「2018年から再開された返済だが、繰り戻しは少ない。平均40億円。
新たな大臣間合意までに残された時間はわずかです。タイムリミットまで1週間を切りました。被害者救済事業の財源に不安を覚えた国土交通省は、自動車ユーザーに新たな負担を求めることを画策しています。いつにも増して合意内容は注目されています。