相鉄・東急新横浜線の開業により、6社局9路線にまたがる直通ネットワークが完成しますが、新横浜直通をめぐっては東武と西武で方針が分かれました。「新幹線駅へ乗り換えなし」。

メリット・デメリットを時間・運賃の点からも考察します。

東武と西武で分かれた「新横浜乗り入れ」の判断

 2023年3月の開業に向けて準備が進む東急新横浜線・相鉄新横浜線。その運行形態は相鉄線と東急目黒線、そして目黒線と既に直通運転している東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道線、都営地下鉄三田線がメインルートになると見られますが、東急東横線と東京メトロ副都心線にも一部の列車が直通運転を行います。

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東武は東急新横浜線への直通を決定した。写真はイメージ。

 現在、副都心線には東横線以外にも東武東上線と西武池袋線(西武有楽町線、狭山線含む)が乗り入れていますが、今回の発表で明らかとなったのは、東武のみ新横浜線直通列車が設定され、西武は乗り入れを見送るということでした。

 事前の予想では東武、西武ともに新横浜線への直通はしないのではないかと見られていただけに、東武の直通方針は意外でしたが、東武と西武で判断が分かれたのも興味深いところです。

 両社の選択にはどのような背景があったのか。「乗りものニュース」の取材に対し東武は「東海道新幹線へのダイレクトアクセスが実現し、東上線沿線の利便性が拡大します。直通運転により相互に人の行き来が生まれ、沿線活性化につながると考え、直通を行う方針としました」しています。

 一方、西武は「西武線沿線からの相鉄・東急新横浜線方面へは、横浜駅方面と比べ利用が少ないことが見込まれるため、S-TRAINも含め直通運転は行いません」との考えです。

 まずは東武から考えてみましょう。

東上線沿線の利便性が拡大するとしていますが、実際にはどれだけ効果があるのでしょうか。例えば、東上線の川越市から東海道新幹線を利用する場合を想定してみます。

川越市→新幹線駅 東京?品川?新横浜?

 新横浜線の、東上線直通列車の種別や運行頻度など詳細はまだ明らかになっていませんが、仮に「Fライナー」と同様に東上線・副都心線で急行運転をするとした場合、川越市から渋谷まで約50分です。東横線直通列車は新横浜~渋谷間が約30分と明かされていますので、川越市から新横浜までおよそ1時間20分となります。

 現在、東上線沿線から東海道新幹線を利用する場合、池袋から東京メトロ丸ノ内線で東京に出るか、池袋からJR山手線で品川に出るのが最短です。川越市から東京までは約1時間、品川までは1時間10分(いずれも日中)です。

 東京~品川間は新幹線で6分ですが、東京駅の丸ノ内線から新幹線までは距離があり、乗り換えに時間がかかるので、実質的には品川の方が近いでしょう。ただ東京は始発駅なので余裕をもって乗車できるというメリットもあり、ここは個人の好みによります。

 では品川と新横浜を比較してみましょう。品川の方が10分早く着きますが、品川~新横浜間の所要時間は新幹線で約10分なので、トータルでは変わらないことになります。

 料金面では、新幹線の乗車区間が短くなることで差が出るのでしょうか。新大阪まで「のぞみ」自由席を利用した場合、品川からは1万3870円、新横浜からは1万3540円と330円しか変わりません。

川越市から品川までの運賃は735円。川越市から副都心線の渋谷までの運賃は597円です(いずれもIC)。渋谷~日吉間が13.6km、日吉~新横浜間が5.8kmで合計19.4km。これを現在の東急の運賃に当てはめると251円なので、合計848円です。

 東急は新横浜線の開業と同時に運賃を10%ほど値上げする予定なので、同区間が276円になると仮定した場合は873円になります。つまり東上線~両新幹線駅間の差額は138円になり、さらに品川発の場合は新幹線代330円がかかるので、運賃・料金のアドバンテージはわずか200円弱ということです。相鉄新横浜線(相鉄・JR直通線)西谷~羽沢横浜国大間には30円の加算運賃が設定されており、東急新横浜線にも同様に設定されれば差はさらに縮まります。

「Fライナー」「TY特急」新横浜へ行くのは…

 つまるところ、東海道新幹線の利用を想定した東上線から新横浜直通のメリットは、乗り換え不要ということくらいです。従来の乗り換えも池袋で1回だけなのですが、新幹線利用時はたくさんの荷物を抱えているケースが多いので、1回でも乗り換えが減るのは大きな利点とも言えます。また東海道新幹線まで1本でつながるというのは(実際に使うかどうかは別として)沿線価値に大きなインパクトを与えます。東武はこうした効果を重視した形です。

「東武線→新横浜直通」に勝機はあるか 東急新横浜線めぐる判断 西武は名より実をとる?
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東急東横線内を走る「Fライナー」(左)。
車両は東京メトロ副都心線の10000系電車(画像:写真AC)。

 西武はどうでしょうか。西武線沿線からの所要時間、運賃・料金を計算しても同じような結果になるため、アドバンテージがなく競争力に欠けるとの判断でしょう。それでも新横浜を利用する場合は武蔵小杉などで対面乗り換えが可能なので、実質的には1本で行けるようなものです。西武は名より実をとったということでしょう。

 西武は土休日に限り、東横線・みなとみらい線直通の座席指定列車「S-Train」を運転するなど横浜との結びつきを重視しています。一方2022年3月のダイヤ改正で、日中の東京メトロ有楽町線直通列車を毎時2本削減するなど、地下鉄直通列車の輸送力を見直しており、限られた運行本数を振り向けるほどのニーズはないとの判断とも考えられます。

 ただ、東上線との直通も簡単なものではありません。東武と東急をつなぐ副都心線は日中、東武と西武からそれぞれ30分ごとに「Fライナー」が乗り入れており、これらが東横線内で毎時4本の特急列車となります。

 2016(平成28)年に命名された「Fライナー」は種別と発車時刻を固定した分かりやすい列車として定着しており、西武が話すように横浜方面の利用者の方が多いことからしても、この一部を新横浜線に振り向けるのは困難です。東急も「東横特急」の看板は下ろせないでしょう。

 しかし新幹線駅アクセス列車という性質上、速達性を確保する必要があり、東上線内を優等運転したとしても副都心線内各駅停車では乗り入れる意味がありません。

ですが副都心線内急行列車を増発するとなればダイヤを大幅に変える必要があります。

 この難題を各社はどう解決するのでしょう。それぞれが社運をかけた大規模乗り入れ、形だけのものに終わるはずがありません。期待しながら見守りましょう。

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