滑走路脇でジャンボ貨物機のパーツが落下する事象が発生した成田空港には、もっと珍しい“落下物対策”があります。それは「洋上でギアダウンして着陸せよ」というもの。

なぜでしょうか。

なにも金属製だけじゃない“落下物”

 2022年2月11日、NCA(日本貨物航空)が運航するボーイング747貨物機(機番:JA14KZ)の左主翼の一部が落下。翌12日、成田空港の滑走路脇で、同部位が発見されました。航空機の部品は、空中に浮かぶためとことん軽量化されていますが、今回落下した主翼下面の高揚力装置(フラップ)の可動部を覆う「フラップ・トラック・フェアリング」の重量はおよそ60kgにも及ぶそうです。

 今回は地上で部品が見つかったことから、着陸の衝撃でパーツが外れたと見られますが、いわゆる“落下物”のトラブルは、とくに空港周辺の地域では、切っても切り離せない関係といえるでしょう。

成田空港 世界でも稀な“落下物対策” 南から進入のみ「洋上で...の画像はこちら >>

成田空港に南側から着陸する旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 着陸進入中のジェット旅客機は、着地にむけ、さまざまな装置を作動させます。低速飛行でも飛行を安全に継続できるよう翼の面積と断面形状を拡張するフラップ、着地や地上走行などに使うギア(車輪)などが代表例です。このとき、フラップ展開にともなってフラップの一部が外れたり、ギアの扉が外れたりする現象が、ごくまれに発生しています。

 ただ落下物とされるものは、なにも機体のパーツだけとは限りません。もっとも多いもののひとつが、氷です。

 そのため、今回NCA機のトラブルが発生した成田空港では、地元からの強い要望により、世界でも数少ない特殊な“落下氷対策”が実施されています。

同運用は、国土交通省が発行する航空関係者むけに各空港の航空路などをまとめたガイドブック「AIP(航空路誌)」にも記載されています。

成田特有の“落下氷対策”はどのようなもの?

 成田空港で実施されている“落下氷対策”は、成田に北風などが吹き、南側(滑走路34L/34R)へ着陸するため、九十九里浜から陸地に進入する際に実施されます。九十九里の海上を飛んでいるうちに、ギア(車輪)を降ろさなければいけないのです。

成田空港 世界でも稀な“落下物対策” 南から進入のみ「洋上で脚降ろして着陸せよ」 なぜ?
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2022年2月、「フラップ・トラック・フェアリング」が落下したJA14KZ(乗りものニュース編集部撮影)。

 これはギアを降ろした際の振動で、機体に貼り付いた氷塊が落下することがあるため、人家のある地上ではなく、洋上で氷塊を落とすための工夫だそう。

 氷の元になる水は、機体から漏れた水が上空で凍ったケースが多いとされてます。かつてはラバトリー(化粧室)からの排水が多く、最近は胴体下部の排水ドレーンからの例もあったようです。この運用は成田空港が“ほぼ国際線専用”だった時代から始まっています。フライト時間の短い国内線と比べ、長距離国際線では、フライト時間が長いぶん、氷塊が広がる条件が増える――というのも、このルールの採用にいたった一因とも。

 成田空港では、実際にシップが九十九里浜の前でギア・ダウンしているか、2週間ほど実地調査をしているそうです。調査は双眼鏡を用いて肉眼による調査とのことで、北風が吹いている冬の作業となるので、凍えるように寒い……と、ある人から聞いたことがあります。

 一方で、滑走路は一方通行ではなく、航空機は風向などによって両方向から進入します。

成田空港でも同様で、北側(16L/16R)へ着陸するパターンもあるわけです。ただ、北側進入の場合は、なぜか内陸で脚を降ろす、というのがスタンダードのようです。

 この理由については断定できないものの、北側進入の場合洋上では高度が高すぎるというのと、南側進入を使うことが多い冬季のほうが、寒さのため氷が溶けにくく、落下氷が発生しやすい、ということは言えるかもしれません。

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