大阪市北区・福島区で予約制の「オンデマンド交通」がサービスを開始しました。「大阪メトロ・オンデマンドバス」と、ウィラーの「mobi」が完全競合。

サービスとしては同様ですが、利用してみるとその違いや課題も見えてきました。

梅田に2社同時参入「オンデマンドバス」

 2022年4月1日、大阪市北区・福島区エリアで、2社による「AIオンデマンド交通」(以下、デマンドバス)の実証実験が開始されました。ひとつは「大阪メトロ・オンデマンドバス」、もうひとつが高速バスで知られるウィラーの「mobi」です。

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ウィラー「mobi」(上)と大阪メトロ・オンデマンドバスの車両とチラシ(宮武和多哉撮影)。

 デマンドバスは、エリア内に細かく設けられた乗降場所をスマートフォンからの予約などで指定し、目的地へ移動できます。車両はいずれもワンボックスカーで、その移動ルートは予約に応じてAI技術によって弾き出され、他の乗客と相乗りで各自の目的地へ向かいます。利用感としては路線バスとタクシーの中間のようなものです。

 大阪メトロのデマンドバスは、これまで生野区などで運行実績があります。対するウィラーのmobiは、東京都渋谷区、名古屋市千種区、京都府京丹後市などで展開中です。一般的にオンデマンド交通は、路線バス廃止後の代替え手段として導入される場合が多いですが、今回は既存の路線バスとは別です。実証実験の位置づけとはいえ、この形態のサービスどうしが競合するのは、極めて珍しいといえます。

 今回のエリアである大阪市北区・福島区は、JR大阪駅をはじめ阪神・阪急・大阪メトロの鉄道路線が乗り入れ、路線バスもかなり頻繁に運行されています。

しかし、それらのほとんどは梅田へ向かっています。北区・福島区は極めて狭い範囲に約20万人が住む宅地エリアでもありますが、自宅から病院や買い物、役所など生活圏の用事がある方向には、移動手段が乏しい側面も。そこで、既存の交通機関がカバーできない移動ルートを2社のサービスで確保し、自転車やマイカーの“ちょい乗り”に代わる手段の提供を目指すものです。

 サービス開始直後に各戸へ配布されたチラシも、大阪メトロとmobiがオモテ・ウラで掲載されており、同様のサービスを同時にスタートする両者への配慮を伺わせます。しかし、実際に両サービスを比較してみると、2社のちょっとした個性が至る所で見受けられました。

同じようでちょっと違う2社のエリア、タクシーとの競合を避ける工夫も

 大阪メトロのデマンドバスとmobiとも、運行は地域のタクシー会社に委託されています。ジャンボタクシーの車両をそのまま利用しているせいか、タクシー配車アプリのロゴが入った宣伝モニターが残るなど、タクシーとしての名残も見られます。

 利用料金は1乗車300円、1か月間使い放題の定期利用(サブスク)は5000円と、両者でほぼ同じ。しかしmobiは4月末までの定期利用申し込みで初月半額、家族一人追加を500円で提供し、回数券プラン(5回1400円など)も設定するなど、その価格攻勢はかなり魅力的です。

 乗降地点は一部区域を除き、それぞれの区内で200~300mおきに設けられています。かつて運行されていたコミュニティバス「赤バス」(2013年廃止)が入れなかった背の低い鉄道高架下も、ワンボックスカーは難なく通り抜けています。

 ただ、乗降地点はバスやタクシーとの競合が激しいエリアには、ほぼ設定されていません。

これはオンデマンド交通が「既存の交通機関との競合がない」という道路運送法の条項への配慮かと思われますが、特に大阪駅周辺は、大阪メトロが桜橋口に乗降場所が1か所あるのみ、mobiの乗降場所はなく、少し離れた茶屋町エリアを選択せざるを得ません。

 また、タクシーの牙城とも言える北新地には乗降場所が全くなく、西隣の堂島での乗降も大阪メトロのみ。夜の街からの移動は選択肢が限られます。

大阪メトロvsウィラー「デマンドバス」のガチ対決! 使ってわかった違い 課題は山積
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JR大阪駅桜橋口前に停車する大阪メトロのデマンドバス。梅田エリアの乗降場所は実質ここしかない(宮武和多哉撮影)。

 2社とも専用アプリでの予約が主となりますが、mobiは稼働中の車両が地図上で表示され、それを確認しながら予約できます。また両社とも車両の接近をプッシュ通知で知らせてくれるのはありがたいところですが、乗車時間をある程度指定して予約ができるのは大阪メトロのみです。ただ、こうした機能面は今後徐々に改善される可能性があります。

 筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)は2社のサービスを通算10回以上利用しましたが、高齢者や乳幼児を連れた人などが多く、相乗りとなることもあります。また、平日朝には1~3分間隔で運行される大阪シティバス34号系統(大阪駅~守口車庫)の混雑による“密”を避けるべく、バス停が近くてもデマンドバスを利用するという人もいました。駅やバス停から遠い淀川南岸や東天満エリアでも、2社の車両を見かける機会が増えています。

「誰でも使える」まであと一歩!見えてきた課題

 大阪市内に限らずデマンドバスが抱える課題として、まず予約の難易度があげられます。

専用アプリを操作しての予約が難しい高齢者などのため、電話予約も受け付けられていますが、現地に精通しているわけではないオペレーターが、「◯◯から◯◯まで行きたい」というオーダーに手間取っている様子も感じられました。

 現地状況に精通していないのはアプリも同様です。地図上で車両が近づき、「あと2分で到着します」との通知がきても、実際にはそのあいだに塀などがあって、車両は大きく迂回しなければならない、ということもあります。

 またバスやタクシーと違い、到着時間もあくまで目安と思って、遅れることを想定したほうがよさそうです。というのも、走行中に近くで予約が入ると迂回するため、予約時にアプリで示された目安時間から遅れることがあります。またAIが示すルートも、もともとタクシーを運転しているドライバーからすれば「え、そっち?」と驚くようなルートが多いそうで、「かなり改善の余地がある」と口を揃えていたのが印象的でした。

 2022年4月現在、両社のサービスとも運用に就くのが2~5台と少なく、予約の取りづらさからお詫びのメールがくるような状況が続いています。今後さらに利用者が増加する前に改善してほしいところです。

大阪メトロvsウィラー「デマンドバス」のガチ対決! 使ってわかった違い 課題は山積
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mobiの車両。既存のジャンボタクシーを使用している(宮武和多哉撮影)。

 とはいえ、アプリの操作自体は慣れると使いやすく、1回300円という料金での移動はとても魅力的。またプロのタクシードライバーが担うだけあって、走行の快適さや接客の目配りは、既存の路線バスにはない素晴らしいものでした。

現状ではサービスそのものを知らない人も多く、まだまだこれから。バス・タクシーと競合を避けるため改善策は限られますが、まずは広く知ってもらいたいと考えます。

 mobiであればスポンサーの獲得(病院やパチンコ店とのタイアップで乗降場所を確保し、その利用者は乗車無料とするなどの事例あり)、社用車移動を削減したい法人との契約取得、大阪メトロであれば地域のコミュニティを利用した講習会での利用者獲得など、これまでのオンデマンド交通の運営で積み上げてきた実績を活かすことも期待されます。

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