浦安市のホテルに、本物のJAL機の廃材を活用して機内の空間を表現したコンセプトルームが誕生しました。この異色の部屋はどのように実現したのでしょうか。

生みの親に聞きました。

航空用じゃなくても一般的な用途であれば、十分に使用可能

 東京ディズニーランドの近隣に位置する東京ベイ東急ホテル(千葉県浦安市)の一室として、2022年のゴールデンウィークから「ウイングルーム」と呼ばれる部屋の稼働が始まりました。ここは、本物のJAL(日本航空)機の廃材を活用して機内の空間を表現したコンセプトルームです。
 
 この部屋は、「JAL整備士の魂」がこもっていました。

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東京ベイ東急ホテル「ウイングルーム」(2022年4月、乗りものニュース編集部撮影)。

 JALグループでは新型コロナウイルス感染拡大のなか、航空機部品の廃材を活用した商品を展開しており、今回の“部屋”もその一環です。開発にかかわったのは普段、JAL機の整備を行っているJALエンジニアリングのスタッフたち。整備士ならでの創意工夫によって生まれています。

「航空機は、極限まで機能性を追求した300万の部品で構成されており、それぞれに厳しい基準が設けられています。それに適さなくなったものは取り下ろされますが、廃材は(航空機用ではない)一般的な用途であれば、十分に使用可能です。これらの部品の希少性、ストーリー性などは大きな付加価値だと考えています」(JALエンジニアリング 部品サービスセンター 矢田貝 弦主任)

 このコンセプトルームは、矢田貝主任が描いた1枚のスケッチが原案となっています。

「たとえばライフベストやシートカバーなど廃棄量の多いものや、小型のパーツなどは、これまで商品として開拓を進めてきました。

一方で、シートやパネルなどの大きな廃材については、どう活用すればいいのか方法を探っていたところ、東京ベイ東急ホテルからお話をいただいたのです。このコンセプトスケッチは、いまから8か月ほど前(2021年9月)に、若手の整備士と相談しながら完成させました」(矢田貝主任)。

実際の部屋はどうなった? シートも特別なものを…

 出来上がった部屋には、JALのボーイング777-300国内線仕様機で実際に使用されていた機内内装(窓・窓枠パネル)と、同型機の普通席として「実際に8年間使われていた」3人がけの本物のシートが並び、客室の床にはボーイング777-200国内線仕様機用の航空機用カーペットが敷かれています。これらの機材は2021年3月末をもって、全機退役となっていました。

 このほか室内にはCAが飲食物を提供する際に用いる「ミールカート」の実物が。エンジンブレードなど航空機部品を使用したアイテムや、国内線ファーストクラスのシートカバーの廃材を使ったクッションなども備えつけられています。

ホテルに誕生「JALの部屋」どう実現? 整備士が本気で部屋作り 細部に工夫… "生みの親"に聞く裏側
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JALエンジニアリング 部品サービスセンター・矢田貝弦主任(2022年4月、乗りものニュース編集部撮影)。

 矢田貝主任は「出来上がった部屋はイラストとほぼ同じような仕様です」と話すものの、「(原案では2人がけだった)シートを3人がけのものにしました」とも。

「これはテーブルから肘掛けが出る(通常は全席の背もたれ部より展開する)、ブロック最前列のシート(いわゆる「お見合い席」)を選んだためです。こうするとお客様がテーブルを出してお食事などを楽しめるかと思いまして、あえてその席を選んでいます。また、3人席の方が幅広いニーズにお応えできるというのもあります」(矢田貝主任)

 ただ矢田貝主任は、このコンセプトルームの実現には「困難があった」とのこと。「イラストは簡単にかけたのですが、それをどのように安全性を確保しながら形にしていくか、というのが難しかった点です」と話します。

実機とはちょっと違うホテルの部屋 そこで光るJAL整備士の魂

 矢田貝主任はコンセプトルームの設計で特に実現に苦労したアイテムについて、客室の窓側についている「窓枠パネル」の設置を挙げています。

 このパネルは、「上弦の月」のようにやや丸みを帯びた板のような形状をしています。矢田貝主任「パネルはもともと航空機の構造部分に留めておくものなので、実際の部屋に置こうと思うと自立するものではありません。これを自立させるために整備士間でアイデアを出し合い、整備用部品輸送の木箱などから支えを作るなどして、自立できるようにしました」と、その工夫を話します。

ホテルに誕生「JALの部屋」どう実現? 整備士が本気で部屋作り 細部に工夫… "生みの親"に聞く裏側
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東京ベイ東急ホテル「ウイングルーム」(2022年4月、乗りものニュース編集部撮影)。

「今回の部屋は、お客様の安全性を最優先に設計しました。実はパッと見たところシートと窓枠パネルの部分については、機内と同じような再現性を確保しつつも、寸法などは強度上最適なように設計しています。何回もメンバーでシートに座って『安全性は大丈夫か?』と確認しながら製作しました」(矢田貝主任)

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 整備士が体験した、“部屋”をつくるという作業。「マニュアルが全くないなか、普段と違う頭を使って考えたので、参加したメンバーは大変ながらも楽しんでいたようです」と矢田貝主任。整備技術を別のところに活かせたことが、今後の整備作業にも生きるのではないかといいます。なお現在、JALの整備士が手掛けた「ウイングルーム」は、大盛況の予約状況が続いているようです。

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