アメリカなどからの軍事支援により、ウクライナへ様々な兵器が集まっています。そのなかには、歴史の古い装備のひとつ「戦場のタクシー」とも呼ばれるM113装甲車も。

かつてソ連側にあったウクライナ兵を乗せることになりました。

制式採用は60年前 M113とは

 2022年4月13日、アメリカのジョー・バイデン大統領が、総額8億ドル相当の新たなウクライナへの軍事支援を行うと発表しました。この軍事支援の中にはM113装甲車200両も含まれています。

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M113装甲車(画像:アメリカ陸軍)。

 M113は1960年にアメリカ陸軍に採用された、「装甲兵員輸送車」に分類される装甲車です。装甲兵員輸送車は、敵の銃弾や砲弾の破片などから味方の兵士を保護し、前線まで輸送することを目的とした車両で、その性質から「戦場のタクシー」と呼ばれています。

 このM113以前に実用化された履帯(キャタピラ)式の装甲兵員輸送車は、装甲に鉄鋼を使用していたため重く、輸送機からの空中投下や水上浮航が困難でしたが、M113は航空機にも使用されるアルミニウム合金を採用したことで、従来型の履帯式装甲兵員輸送車に比べて大幅に軽量化されています。平地での野戦だけでなく空挺作戦や渡河作戦にも使用できる、運用柔軟性の高い装甲兵員輸送車となりました。

 初期型のM113は、被弾した際に火災が発生しやすいガソリンエンジンを搭載していましたが、ベトナム戦争の戦訓を基に開発された改良型のM113A1からは、デトロイト・ディーゼルが開発した「6V-53」ディーゼルエンジンに変更されています。このエンジンはGM(ジェネラル・モータース)の民生車向けに70万台が製造されており、被弾時の火災が発生しにくくなっただけでなく、信頼性の向上と価格の低下も実現しました。

 運用柔軟性と信頼性が高く、また価格も安いM113はアメリカ以外の国からも高く評価され、派生型や外国でのライセンス生産分なども含めて8万両以上が製造されるベストセラー装甲車となりました。

開発当時は想像だにせず? ウクライナ兵を乗せるとは…

 生産数が多い装備は、当然のことながら実戦での戦歴も多く、M113はベトナム戦争から2017年にフィリピンで発生した「マラウィの戦い」と呼ばれる内戦(ISILに同調する武装集団とフィリピン軍との戦い)まで、50年以上、33の戦いに参加しています。

その間に国際情勢は大きく変化しており、アメリカでの開発時点では考えられなかった国による使用や、戦いへの参加という現象も起こっています。

 M113はベトナム戦争中、南ベトナム軍にも多数が供与されました。戦争終結後に南ベトナム軍の装備品を編入した北ベトナム軍(現在の国軍であるべトナム人民軍)は1979年の中越戦争で、ベトナム戦争中の仇敵であるアメリカが開発したM113を、北ベトナムを支援した中国との戦いに投入しています。

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ベトナム・ハノイの軍事歴史博物館に展示されているM113(竹内修撮影)。

 そもそもM113は、かつてウクライナもその一部であった、旧ソ連を盟主とするワルシャワ条約機構との対決を想定して開発された装甲車です。戦場のタクシーの新たなお客様としてウクライナ兵を乗せるということも、当然のことながら開発時には考えられなかったことの一つです。

 また、派生型の多さもM113の特徴の一つです。5mm機関砲を搭載する歩兵戦闘車型のAIFV(Armored Infantry Fighting Vehicle)や、対戦車ミサイル搭載型、対空ミサイル搭載型など、様々な派生型が開発されており、その中にはイタリアが開発した水陸両用強襲車「M113」アリゲーターのような、もはや原型が何なのかわからないレベルにまで改造された車両も存在します。

履帯式装甲車の再評価につながるか

 もっとも、21世紀に入って、対テロ戦争のような不正規戦が増加して以降、先進諸国の軍隊では、履帯式装甲車に比べて戦場へ迅速に展開できる装輪(タイヤ)式装甲兵員輸送車の採用が増加しています。しかし装輪装甲車は、履帯式に比べて泥濘地や砂漠などの舗装されていない路面(不整地)の踏破能力にやや劣り、また運用する軍隊の要求に基づく装備の追加搭載能力でも、履帯式装甲車には及びません。

 そのため、近年では履帯式装甲車を再評価する動きがあり、今回のロシアのウクライナ侵攻により、その気運はさらに高まる可能性があると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

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基地警備用にアメリカ空軍がイラクへ派遣したM113。
増加装甲の装着により外観が大きく変化している(画像:アメリカ空軍)。

 そして現在。アメリカ陸軍はM113を後継する履帯式装甲車「AMPV」(Armored Multi-Purpose Vehicle)の導入を進めていますが、いまだに多くの国でM113は主力の装甲兵員輸送車として運用されています。近年ではM113をライセンス生産したトルコが、M113をベースとする無人戦闘車両「シャドウライダー」を開発するなど、新たな活用法も生まれています。

 今年で制式化から62年を迎えるM113ですが、世界中でまだまだ活用されそうです。たとえば、M2 12.7mm機関銃やM1911「ガバメント」拳銃など、制式化から100年以上に渡って運用されている銃器は存在しますが、軍隊の制式装備として100年運用されている装甲車は、筆者の知る限り皆無です。M113が初めての“100年装甲車”になるのでしょうか。

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