トヨタ「ノア/ヴォクシー」のように、中身は同じで外側だけ変えて別車種にする「兄弟車」が数を減らしています。昔は3兄弟もありましたが、もはや別車種を用意する理由が希薄に。
クルマには“兄弟車”という関係が存在します。中身が同じだけど、違う名前で販売されるクルマのことです。2022年現在、その一部が、絶滅に近づいています。
新型ノア(左)とヴォクシー。中身は同じだ(画像:トヨタ)。
ここで一部と言ったように、兄弟車には、次のようにいくつかの種類があります。
・他メーカーとの共同開発:トヨタ「86」とスバル「BRZ」など。
・OEM供給;トヨタ「ライズ」とダイハツ「ロッキー」など。
・ブランド違い:トヨタ「ランドクルーザー」とレクサス「LX」など。
・キャラクター違い:トヨタ「ノア」と「ヴォクシー」など。
これらは、フロント周りのデザインこそ異なりますが、中身は基本的に同じと言えるもの。
そして、名前を見てわかるように、トヨタはたくさんの兄弟車を扱っています。そして、トヨタに兄弟車が多いのは、過去のトヨタのビジネス手法に理由があります。それが「多チャンネル」と「フルラインナップ」です。
まず、トヨタの昔から今も変わらず続いている流儀は「多数のクルマ(商品)を揃える」というもの。小さなクルマから、大きなクルマ、スポーツカーからミニバン、SUVまでを用意します。ないのは軽自動車だけで、それは子会社のダイハツに任せています。
しかも、昭和から平成にかけてトヨタは、「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」という4種類の販売チャンネルを構え、基本的に、それぞれで別のクルマを売っていました。店ごとに取り扱い車種が異なるため、欲しいクルマがあれば、それを売っている店に出向く必要があったのです。
そうなると売っている店同士の競争も発生します。なぜなら、トヨタの場合、メーカーと販売店は別資本であることが多く、同じ地域でも「トヨタ店」と「トヨペット店」が別会社のこともあります。そうしたとき、「他の販売チャンネルで売っている人気車を、違う販売チャンネルにも欲しい」ということもあります。
これが数多くの「キャラクター違い」の兄弟車を生むことになります。有名なのが「マークII/クレスタ/チェイサー」の3兄弟です。また、「カローラ」のスポーツモデルである「カローラレビン/スプリンタートレノ」の兄弟もありました。有名な漫画『頭文字D』の主人公の愛車「AE86」の正式名は「スプリンタートレノ」です。
昭和から平成にかけてトヨタの4チャンネル戦略は成功を収めました。ところが、時代の流れとともに販売数が伸び悩むようになると話は変わります。同じトヨタ同士で競いあうのは無駄になりますし、数多くのクルマを開発する手間暇もバカになりません。
そのため2010年ごろから、徐々に「キャラクター違い」の兄弟車が減っていきました。気が付けば「マークII」3兄弟は「マークX」に統合されたように、「カムリ/ビスタ」「カローラ/スプリンター」「ハイエース/レジアスエース」は、それぞれ1モデルに整理されます。
そして2020年に決定的な変化が訪れます。それが全販売店での併売です。

エスクァイア。ノア/ヴォクシーよりも上級志向だったが売上は伸びず廃版となった(画像:トヨタ)。
それから現在までのわずかな間に、「サクシード」(「プロボックス」の兄弟車)、「タンク」(「ルーミー」の兄弟車)、「エスクァイア」(「ノア/ヴォクシー」の兄弟車)が廃版となりました。また、「ヴェルファイア」(「アルファード」の兄弟車)」も消滅寸前と噂されています。
どっこい残った「ノア/ヴォクシー」そのワケはそして、トヨタ兄弟車の最後の砦となったのが「ノア/ヴォクシー」です。しかし、この最後の兄弟車は、意外にしぶとく生き残りそうな気がします。
なぜなら、「ノア/ヴォクシー」の属するミドルクラスのミニバンは激戦区。ホンダの「ステップワゴン」に日産の「セレナ」という強敵が待ち受けます。そして、それらのライバルは、同じ車種内に「キャラクター違い」のグレードを用意しているのです。「ステップワゴン」でいえば「エア/スパーダ」、「セレナ」でいえば「セレナ/ハイウェイスター」です。
そうしたライバルに対抗するにはトヨタも「ノア/ヴォクシー」という2つのキャラクターが必要になります。つまり、2つの顔を持つライバルがいるため、「ノア/ヴォクシー」をひとつに整理できないというわけです。

新型ステップワゴン。左がエア、右がスパーダ(画像:ホンダ)。
もしも、ミドルクラスのミニバンの戦いが沈静化すれば、「ノア/ヴォクシー」の整理もあり得るでしょう。しかし、当分の間は、それもないはず。
逆に「共同開発」や「OEM供給」「ブランド違い」は、自動車メーカーが生産の効率化と利益を追求するうえで、これからさらに重要になってくるはず。そういう意味で「キャラクター違い」以外の兄弟車は、まだまだ続くことでしょう。