幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議2022」の自衛隊ブースで、ひときわ目をひいた巨大展示車。プレハブ小屋が置かれたトラックの架台が持ち上がり、高さ5mの位置に達していました。
2022年4月、リアルイベントが3年ぶりに開催された「ニコニコ超会議2022」(以下、ニコ超)は、待ちわびた各ジャンルのファンたちで大盛況でした。超会議の“隠れた定番”と呼ばれ、熱狂的なファンが多い自衛隊ブースも陸・海・空のそろい踏み。通称「MRAP」と呼ばれる陸自の輸送防護車や、海自のミニ護衛艦「こいずも」&「ちびしま」などが並ぶなか……遠目からもひときわ目をひいたのが、高さ5mもの巨大展示でした。
「ニコニコ超会議2022」会場に展示された移動式管制塔(川﨑智水撮影)。
その展示物は、トレーラーの架台が持ち上あがる形で、高さ5mの位置にはプレハブ小屋のようなものが。説明パネルには、航空自衛隊の「移動式管制塔 J/TSC-701」とあります。しかも「防衛省に2式だけの走る管制塔!!」との文字も。
管制塔といえば、空港などに設置されている司令塔です。管制員が高い位置から航空機へ指示を出し、他機や障害物にぶつからないように、また安全に離着陸できるように、空の交通整理をしています。その管制塔が“移動式”とは……気になって調べてみると、実は私たちもお世話になっているに違いない装備でした。
茨城から幕張へやってきたレア装備「移動式管制塔」が配備されているのは、茨城県にある航空自衛隊百里基地です。
移動管制隊とは、日本各地にある航空自衛隊の飛行場で、管制機材の修理を行う際や、万一の故障時、また災害などで飛行場の管制機能が逸失してしまった場合などに、本来の管制塔などに代わって管制業務を行う部隊です。
その際に、大型トラクターで牽引して現地まで運ぶ管制機材のひとつが、「移動式管制塔」なのです。管制塔を必要とするところまで、実際に走って行くから「走る管制塔」、あるいは「どこでも管制システム」といったところでしょう。
移動式管制塔は、「管制シェルター」「通信シェルター」「揚降装置」の3つで構成されています。ニコ超では、「揚降装置」で「管制シェルター」を5mの高さに配置していましたが、最高は8mまで上がるといいます。
通常管制との違いとは?移動式管制塔を展開しての管制業務は、通常の航空管制とどう違うのか。ニコ超では、移動管制隊員の方々のトークショーが開かれており、ここで実際の業務について話を聞くことができました。
航空自衛隊の基地での管制だけでなく、被災地など、もともと管制塔のない場所での展開も多いため、通常管制とは業務が大きく異なるのだとか。何の設備もないところで、一から管制業務できるまでに整えることから始まるそうです。
たとえば、電源を確保するため電力会社から電気をひくための手続き、施工、非常用ディーゼル発電機の整備・運用、発電機の燃料確保などなど――これらを、1分1秒を争って行わなければならないといいます。
ちなみに管制シェルターのてっぺんにある、風を読むのにとても重要な風向風速計、いわゆる「風見鶏」と呼ばれるものは、一般的には鶏型をしていますが、移動式管制塔に設置されているのは飛行機型。

「全高」は最大で13.7mにもなる(川﨑智水撮影)。
移動管制隊は日本で唯一と言えるほどレアな部隊ですが、活動は決してレアではなく、「隊員の大半は1年のうち半分から8か月ほどは自分の基地(百里基地)にいられない」のだとか。つまりそれだけの期間、移動管制の任務に当たるため、日本各地に派遣されているということです。
東日本大震災の際には、津波被害を受けた宮城県の松島基地で展開したそうです。このときは基地の管制塔自体は使用可能だったため、レーダー支援を実施したとのこと。このように移動式管制塔は各地で起こる様々な災害の現場で活躍しており、私たちは気づかぬうちに、移動管制塔に守られているのでしょう。初めて目にした時「プレハブ小屋?」なんて思って申し訳ありませんでしたーーーっ!!