長年、議論が交わされてきた「戦車不要論」が、ウクライナ情勢を受けにわかに勢いづいています。確かにロシアを除く欧米では、ここしばらく「新顔」が見られません。

その次世代戦車の開発状況を概観します。

戦車は淘汰されゆく運命なのか?

 欧米における「次の戦車」の、開発状況はどうなっているのでしょうか。

「戦車はオワコンか」という議論は、もう何十年も繰り返されています。ロシアによるウクライナ侵攻では戦車の残骸の映像が拡散され、不要論が勢いづいているようにも見えます。戦車発明国イギリスは戦車生産ラインを閉鎖し、オランダは戦車部隊を全廃しました。アメリカ海兵隊も戦車部隊を廃止する方針です。欧米の主力戦車の顔触れはもう何十年も同じに見えます。

 では、戦車はもう見切りを付けられて新車開発は停滞しているかというと、実はそうでもありません。

戦車は走るよ将来も! 決して終わっていない「陸の王者」の欧米...の画像はこちら >>

ロシア新型戦車T-14。2015年に登場するも配備が進んだという情報はない(画像:Vitaly V. Kuzmin、CC BY-SA 4.0〈https://bit.ly/3NToOpW〉、via Wikimedia Commons)。

 ウクライナは緒戦の防戦一方から、長期戦で反転攻勢に戦局が変わってくると、対戦車ミサイルではなく戦車、火砲、装甲車の援助を要望するようになっています。ロシアも予備保管していた旧式戦車まで引っ張り出してきているようです。

 戦争とは究極ともいえる生存競争で、その厳しい審判では必要なものは急速に発達し、不要なものはあっという間に淘汰されます。シーパワーの一時代を担った戦艦と、発明されてから100年程度しか経ていない航空機に、それは鮮やかに見て取れます。戦艦は第2次世界大戦を経て、21世紀には完全に淘汰されました。一方で航空機の発達ぶりは述べるまでもありません。

 戦車はまだ淘汰されていません。ロシアは新型戦車T-14を登場させています。ヨーロッパでは独仏が中心となって多国間共同の「MGCS(次世代地上戦闘システム)」、アメリカは「NGMBT(次世代主力戦車)」が研究開発中です。日本や中国などは、21世紀に入ってからも新型戦車を配備しています。

「レオパルト2」+「ルクレール」の衝撃から数年…その後の進捗は?

「MGCS」は、2012(平成24)年からフランスとドイツが始めた、ヨーロッパにおいて標準となる統一仕様の戦車をつくろうという計画です。フランスは「ルクレール」、ドイツは「レオパルト2」という戦車を国産してきましたが、それらの後継戦車を共同開発しようというのです。

 2018年には、「レオパルト2A7」の車体に「ルクレール」の砲塔を載せた「EMBT(ヨーロピアン・メインバトルタンク)」を公開しました。EMBTは展示用の張りぼてかと思いきや、実際に走行し射撃もでき、両国の本気度をアピールしました。

しかも、両者の良い所取りがうまくいったのか高性能だったそうです。

 その後、2021年1月にはイギリスがオブザーバー参加する意思を示し、そのほか2022年現在でイタリア、ポーランド、スペイン、オランダ、ベルギー、スウェーデンが関心を示しています。

戦車は走るよ将来も! 決して終わっていない「陸の王者」の欧米における開発の現状
Large 220603 ngt 02

2018年にデモンストレーションを行った「レオパルト2」と「ルクレール」の合体戦車、EMBTこと「ヨーロピアン・メインバトルタンク」(画像:KNDS)。

 イギリス、ドイツ、フランス、イタリアなどは、それぞれ戦車を国産しています。これまでも戦車の開発で国際共同開発はあったものの、各国の利害対立から失敗してきた歴史があります。最近では兵器の開発コストが高騰する一方であるためか、負担分散を目的に国際共同開発はよく行われており、ウクライナ情勢も踏まえてヨーロッパ各国の本気度が試されることになりそうです。

 2020年5月、ドイツのラインメタル、クラウスマファイ・ウエッグマン(KMW)、フランスのネクスタ―の3社からなるMGCSの共同事業体KNDSに、ドイツ政府はシステムのアーキテクチャを定義研究する最初の契約を結び、18か月をかけてプログラムを評価検討しました。2028年までに全体システム実証フェーズおよび、初期生産とテストを完了させるといい、配備開始は2035年から、完全な作戦運用能力獲得は2040年までに達成される予定です。あと約20年先のことになります。

一方アメリカは「次世代戦闘車両」に夢をギッシリ詰め込んで…!

 アメリカは、1981(昭和56)年に制式採用されたM1「エイブラムス」を、改良を重ねつつ使い続けています。

 アメリカ海兵隊は、冒頭で触れたように戦車を廃止する方向ですが、戦車不要論に立っているわけではありません。同海兵隊が運用する120mm砲を搭載したM1A1「エイブラムス」が就役したのは1985(昭和60)年のことで、近代化改修を続け2050年までは使い続けられる予定です。

ただ、現代戦に必須のデジタル機器に必要な発電容量や、車内容積不足などに限界点も見えてきました。

 そうした限界の露呈を受けてか、アメリカ陸軍では、従来の戦車とは異なるカテゴリーとなる複数の「NGCV(次世代戦闘車輌)」の研究開発が始まっています。その責任者である同陸軍のコフマン少将は「『エイブラムス』はまだ世界最高の戦車であるが、次に来るものを研究する必要もある」と述べており、そして2019年11月には、「NGMBT(次世代主力戦車)」のデジタルワークショップが立ち上がりました。

戦車は走るよ将来も! 決して終わっていない「陸の王者」の欧米における開発の現状
Large 220603 ngt 03

米陸軍戦闘能力開発コマンド(CCDC)が発表した重量級ロボット戦闘車(RCV-H)のイメージ。後方で有線無人機を上げている車輌に操縦者が乗る(画像:CCDC)。

「NGCV」は、ロボット戦闘車を基軸とする「ハイテクノロジー夢いっぱいプログラム」で、重量級ロボット戦闘車(RCV-H)が戦車の任務を引き継ぐ構想です。しかし、ロボット戦闘車技術が本当に実戦に使えるのかは分からないのが現状で、まだ進捗は混とんとしており、そして一方のNGMBTは姿かたちも見えてきていません。

 21世紀はハイテクノロジーを駆使した「新しい兵器による新しい戦い方」になると思われていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻はその認識を覆させました。ハイテクノロジー戦争は妄想で、人間はそれほど進歩していなかったのかもしれません。

 ヨーロッパとアメリカとでは、未来の戦車への取り組みの方向性に違いがあります。ヨーロッパでは堅実守旧的なMGCS、アメリカは夢いっぱいのNGCV、NGMBTを目指しており、いずれも完成までは何十年もかかる長期プロジェクトです。ロシアによるウクライナ侵攻の帰結は予想がつきませんし、戦訓を検証するには長い時間がかかるでしょう。

予想のつかない未来に向けた戦車開発は、国家の運命を掛けた博打でもあるのです。

編集部おすすめ