カクカクした形のクルマがかわいい――特にSUVやミニバンで、そのような声が聞かれます。しかし、日本の売れ筋を見れば四角いクルマばかり。
いま、四角いクルマが売れています。
2022年4月の新車販売ランキング(一般社団法人日本自動車販売協会連合会 乗用車ブランド通称名別順位)では、1位をトヨタの「ルーミー」が獲得しました。ルーミーは、6年も前の2016(平成28)年11月に発売されたコンパクトカー。背が高く、ミニバンのような四角いフォルムが特徴です。ほかにも、ランキングには「アルファード」(5位)、「ノア」(7位)、「ヴォクシー」(9位)と、四角いミニバンの車名が並びます。
さらに軽自動車マーケットへ目を向ければ、7年連続年間販売ナンバー1のホンダ「N-BOX」を、スズキの「スペーシア」とダイハツの「タント」が追従する状況。このベスト3すべてが、トールワゴンと呼ばれる背の高い四角いクルマです。
メルセデス・ベンツGクラス。カクカクしたフォルムは女性にも人気(画像:メルセデス・ベンツ日本)。
では、四角いクルマは何が良いのでしょうか。
最初に考えられるのは、四角いからこその室内空間の広さです。
逆にデメリットもあります。それは四角さゆえの空気抵抗の大きさ。抵抗が大きいから燃費は悪くなります。また、背が高いため、クルマの重心も高くなり、ハンドリング面では非常に不利になります。とはいえ、空気抵抗やハンドリング悪化は、ゆっくり走っていれば、意外と問題になりません。街中の送迎や買い物、配達であれば、空気抵抗やハンドリングが多少悪くても、室内の広い四角いクルマの方が便利となるわけです。
商用車っぽさは「可愛さ」かまた、クルマのデザイン的に考えると四角いクルマは「レトロ」な存在になります。
歴史を振り返れば、クルマは「馬のいない馬車」に始まり、徐々に走行スピードを高めていきました。馬車の時代の車体は、まさに箱のような形です。
しかし、速度が上がるにつれ、空気抵抗が問題になります。それを減らすため流線形のボディが採用されました。最初にブームになったのは1930年代。第二次世界大戦後は、アメリカ発の“テールフィン”が大流行し、その後は、よりモダンなデザインへと移行。ボディを平面で構成する四角いクルマは徐々に少数派となっていきました。
気が付けば、ボディを平面で構成される四角いデザインのクルマは「レトロ感」を抱かせるようになりました。古いデザインを踏襲してきたジープの「ラングラー」や、メルセデス・ベンツの「Gクラス」などは、平面を多用するレトロなデザインが、人気の大きな理由となっていると言えるでしょう。
また、欧州メーカーの多くは、乗用車と商用車を明確に分けています。日本で人気のルノー「カングー」や、プジョー「リフター」/シトロエン「ベルランゴ」は、室内空間最大を目指した四角いデザインが特徴ですが、欧州では商用車という扱いです。

トヨタ・ルーミー(左)やホンダ・N-BOXのようなコンパクトの人気車種も四角い(各社ウェブサイトより)。
日本で四角いクルマが人気の理由は、ひとつに「遠出しない、日常の足としてクルマを使う人が多いから」というもののはず。もうひとつは、「レトロなデザインを好きな人が一定数いるから」ではないでしょうか。商用車っぽさは、可愛さとして捉えられているのかもしれません。