東海道新幹線車両のブレーキ技術を開発するため、JR東海が新たな試験装置を稼働しました。地震時に列車を確実に止めることを目指していますが、そのために、台風や豪雪時まで再現できるという装置です。
地震発生時に、新幹線をいかに短い距離で止めるか。それを追究するための試験装置が、愛知県小牧市にあるJR東海の研究施設にて、2022年春から稼働開始しています。今回、その試験装置の実物を見ることができました。
東海道新幹線の最新車両N700Sと小牧研究施設(草町義和/乗りものニュース編集部)。
列車を急停止させるためにはブレーキの力をできるだけ強くすればいいと思うかもしれませんが、あまりに強くしてもスリップするだけです。さらに、雨や雪の日、寒くて凍結の起こりやすい日には、スリップがより起きやすくなります。これらをふまえ、さまざまな気象条件下で、それぞれに最適なブレーキ力を見出そうとするのが、この新しい試験装置の目的です。
試験装置は2種類。ひとつめの「粘着試験部」は、車輪と線路の接地面にフォーカスしたもの。もちろん線路を延々と敷くわけにいかないので、「軌条輪」と呼ばれる直径3.2m円盤状の"擬似線路"に車輪を横から押し付ける形で試験します。もうひとつは「台車試験部」で、こちらはより実際の台車に即した環境を再現しています。試験装置の最高速度は350m/h。
台車試験部の現場では実際に人工雪の噴射が行われ、台車はあっという間に真っ白に。安全面上の関係で車輪を回す試験のデモはありませんでしたが、「豪雪地帯」の再現ができる装置の威力を目の当たりにすることができました。
雪の噴射だけではなく、台車に吹き付ける強風を再現できる機能もあります。こちらは雨や雪が床下へどう付着するかを調べるのに適しており、着雪しにくい車両構造の検討や、雪落としを自動化する機械の開発にも役立てられるといいます。
とはいえ、研究の本質は「地震発生時のブレーキ試験」ですから、地震の揺れも再現すべきでは、と思うかもしれません。しかし、新幹線の緊急停止は最初の初期微動(P波)を感知して即発動し、縦揺れの本震(S波)がやってくるまでに止める、という考えであるため、研究の優先順位としては車輪とレールの摩擦具合を追究するほうが高いと言えるでしょう。
この試験装置が稼働するまで、JR東海は実車両の全ての車軸で計測されたビッグデータを解析し、その結果を車両へフィードバックしてきました。ブレーキの制動距離は新幹線車両の代替わりごとに短くなっていき、700系→N700系→N700Aの各新車ではそれぞれ10%短縮。その後もN700A3次車、N700Sとそれぞれ5%ずつ短縮されています。そして新導入の試験装置によって、さらなる短縮へはずみとなることが期待されているのです。
総合技術本部の技術開発部 車両制御チームのチームマネージャーである佐藤賢司さんは「これからも技術開発を進め、より安全で快適で、皆さんに愛される鉄道を作っていきたいと思います」と話しました。