新型クラウンがトヨタから発表されると、話題になったのがパトカーへの採用問題。今回の新型はカタログスペック的に大きなデメリットを有しているそうですが、その傾向は既存車でも出ているといいます。

交通取締の現場では高い評判の210系

 トヨタは2022年7月15日、16代目となる新型「クラウン」を世界初公開しました。新型クラウンは「クロスオーバー」「セダン」「スポーツ」「エステート」の4種類をラインナップ。まずは2022年秋に「クロスオーバー」を発売し、順次各タイプを市販するとしています。

 新型クラウンが発表されると、インターネット上で話題になったのが、パトカーに関してでした。SNSなどでは早速、新型クラウンをパトカー風にデザインしたイラストなどが公開され、大きな反響を得ていましたが、警察に詳しいカメラマンによると、新型クラウンがパトカーになるためにはいくつか数値的なデメリットがあるそう。どういった部分が問題視されているのでしょうか。

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210系クラウンがベースの交通取締用四輪車仕様のパトカー(乗りものニュース編集部撮影)。

 そもそもパトカーの調達方法は、大別すると警察庁(国費)で調達したものと各都道府県(地方自治体)が独自に調達したいわゆる県費もの、そして寄贈の3つに分けられます。そのうち寄贈は特殊なケースで台数もごく少数に限られるため、基本的には国費調達、もしくは自治体調達になります。

 国費調達というのは文字どおり国費、すなわち国税によって調達されるもので、国の行政機関である警察庁が一括で大量購入し、全国の都道府県警察に必要台数に応じて少しずつ振り分けます。対して自治体調達というのは、都道府県が必要と認めたときに独自に調達するものです。こちらは各自治体がバラバラに調達するため、個々の調達数は少ないものの、日産「スカイライン」やトヨタ「マークX」のように独自車種が入るのが特徴です。

 クラウンの場合は、いずれの方法でもパトカーとして導入された実績がありますが、最も数が多いのは国費で調達された車体で、現在、導入されているのは先代220系がベースの車体になります。

 ただ、前出の警察に詳しいカメラマンの話によると、この220系ベースのパトカー、どうも現場では動力性能などに関して先代の210系と比べて劣るとの見方が強いようです。

220系と210系の動力性能比べて見たら

 クラウンクラスのパトカーの場合、主に街中をパトロールし、不審者がいないか目を光らせたり、事件や事故があった際は緊急走行で現場に駆け付けたりするための「無線警ら車」と、スピード超過や信号無視などの違反車を取り締まる「交通取締用四輪車」の2種類があります。

 220系クラウンをベースにしたパトカーは、無線警ら車がFR(後輪駆動)の2WDと全輪駆動すなわち4WDの2種類、交通取締用四輪車がFRの2WDで計3タイプあるものの、無線警ら車の2WDと交通取締用四輪車の2WDはパワーユニットに関しては同じものを積んでいます。無線警ら、交通取締用とも2WD仕様は排気量2000ccの直列4気筒ターボ(ガソリン)、無線警ら車の4WD仕様は排気量2500ccのハイブリッド(直列4気筒ガソリン)となっています。

 この3タイプのなかで現場の警察官からあまりよい評判を得ていないのが、2000ccの直列4気筒ターボを積む交通取締用とのこと。

ターボを搭載しているとはいえ非力で、とくに高速道路を管轄する高速道路交通警察隊(通称高速隊)では、その傾向が顕著だといいます。

新型クラウン パトカーになったら「現場は嫌がる?」 現行型でも課題 不安ポイントとは
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2022年7月15日に発表された新型クラウン“セダン”。発売は2023年以降の予定(乗りものニュース編集部撮影)。

 前型の210系クラウンをベースにしたパトカーの場合、警ら用は2WD、4WDともに排気量2500ccのV型6気筒ガソリン、交通取締用四輪車は排気量3500ccのV型6気筒ガソリンでした。

 市販仕様のカタログ値で比べると、220系の2000cc直列4気筒ターボは最高出力180kW(245PS)、最大トルクが350N・m(35.7kgf・m)。対して210系の3500ccV型6気筒(自然吸気)は最高出力232kW(315PS)、最大トルクが377N・m(38.4kgf・m)です。

明らかに前型の210系の方が出力、トルクともに高いのがわかります。

 こうして見てみると、取り締まりの現場から210系の方が良かったというハナシがちらほら出るのも納得といえるでしょう。

 なお、いわゆる覆面パトカーと呼ばれる「交通取締用四輪車(反転警光灯)」もパワートレインは白黒カラーリングの「交通取締用四輪車」と一緒です。そのため覆面パトカーも220系クラウンベースの現行モデルは同じような見方をされているのではないかということでした。

エンジン出力だけじゃない、運転特性に影響与える数値も

 トヨタが発表したばかりの16代目クラウンのパワートレインは、足回りについては4WD一択、エンジンに関しては2500ccハイブリッド(直列4気筒ガソリン)と2400ccハイブリッドターボ(デュアルブーストハイブリッド、直列4気筒ガソリン)の2種類です。気になる出力は前者がシステム最高出力172kW(234PS)。

一方、後者はシステム最高出力257kW(349PS)、最大トルクが360N・m(38.4kgf・m)です。

 交通取締用としては後者の方でしょうが、ハイブリッドターボというものが、どこまでスムーズな加速や乗務員の繊細なアクセルフィーリングに適合しているのか。220系クラウンに不満を抱く現場警察官からすると不安が残るのも無理はないでしょう。

 また前出のカメラマンのハナシでは、現状「クロスオーバー」しかラインナップにないため何ともいえないものの、最小回転半径の大きさもひっかかるといいます。これは「クロスオーバー」が4WDであるがゆえともいえますが、後輪操舵システムDRS(ダイナミックリアステアリング)が搭載されているとはいえ、新型クラウンの最小回転半径は5.4m。対して220系クラウンの2WDは5.3m、210系クラウンの2WDはさらに小さい5.2mでした。

 こういう点もパトカーとして運用するとき、無視できない数値のようです。

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排気量2000㏄の直列4気筒ターボを搭載する220系クラウンがベースの交通取締用パトカー(乗りものニュース編集部撮影)。

 もしかすると、今後に予定されている“セダン”タイプでは、足回りこそFR駆動をラインナップするかもしれないものの、パワーユニットに関しては、現在のトヨタの開発方針からすると、ハイブリッドではない大排気量の自然吸気エンジンを市販車の設定で出すのは難しいのではないかといいます。

 パトカー仕様として設定するのであればエンジンを載せ替えることもあり得なくはないものの、年間を通して生産台数が限られるパトカー仕様のためだけにそこまでするかは不明だということでした。

 ほかにも新型クラウンは車幅も1840mmと、従来の210系や220系の幅1800mmよりも大きくなっています。40mm、すなわち4cmですが、この4cmは意外と大きいのだそう。というのも自動車警ら隊の隊員などは、安全かつ迅速に職務を遂行できるよう、徹底的にパトカーの車体サイズを自らの身体に覚え込ませるといいます。そのため、4cm車幅が変わるだけでその運転感覚は変わってしまうのだとか。

 今年度と来年度の国費調達分のパトカーは、間違いなく220系クラウンがベースになるそうです。なお、再来年度、すなわち2024年度以降はどうなるかわからないものの、国費による大量調達の場合、選択肢としては現状、クラウン以外ほぼない状態だそう。

 現場ではすでに210系クラウンの交通取締用も初期配備車の廃車が出始めています。選択肢がクラウンしかない状況が続くのならば、今後登場予定の“セダン”がどのような構造で登場するのか、興味は尽きないと言えるでしょう。