みちのりホールディングスが東京電力とともに、1都市の路線バスをほぼ電気バスにするかつてない規模の実証を行います。その舞台は栃木県宇都宮。

電気バスの普及で、再生可能エネルギーの普及をも兼ねるという壮大な試みです。

単に電気バスを導入するだけじゃない「モデル構築」

 みちのりホールディングスが2022年7月発表した「電気バス218台」というかつてない規模の導入計画、その詳細が判明しました。
 
 同HDと東京電力HDは8月9日(火)、電気バスの導入とエネルギーマネジメント(EMS)を開発する実証実験について記者会見を都内で開催しました。

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栃木・関東自動車の車両。今後、宇都宮市内の路線バスのほとんどを電気バスに置き換える(画像:関東自動車)。

 このプロジェクトはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2022年度より実施する「グリーンイノベーション基金事業」の一環。みちのりHDがバスの運行を、東電HDがエネルギー需給調整マネジメントを行い、両社で「バスEMS」を確立し、電気バスの大規模導入に関するひとつのモデルを作り上げようという試みです。

「バスの電動化はカーボンニュートラルを達成するうえで重要な取り組みです。しかし、ディーゼルのバスと比較して20年間で2倍近いコストがかかります。エネルギーマネジメントを行うことで、ディーゼルのバスと同等のコストにすることができます」(みちのりHD 松本 順CEO)

 バスの運行と充電を同時に管理し、主に昼間に継ぎ足し充電を行っていくことで、必要最小限な充電での運行を可能に。その結果、大容量の蓄電池が不要になり、車両コストも抑えられるのだそうです。

 さらにこの充電には、再生可能エネルギーを充てていくことを想定しています。

再エネは昼間に出力のピークを迎え、その電力が余剰となってしまうことがひとつの課題ですが、電気バスのフリート(車群)をその受け皿、つまり「調整電源」とし、地域の再生可能エネルギー利用を促進することにつなげる構えです。

「日々のバス運行のなかに“充電”を織り込んでいくことがミソ」だと、みちのりHDの松本CEOは話します。EMSを行うことで、夜間に一括で充電したり、需給がひっ迫する時間帯を避けたりして、逆にひっ迫した場合にバスから電気を供給することも可能だとか。

 東電HDの長崎桃子(崎は異体字)常務執行役は、この取り組みに再生可能エネルギーを活用することで、「エネルギーの地産地消につながり、カーボンニュートラル社会の原動力になる」と話します。

1都市まるまる電気バス化 舞台は「宇都宮」

 みちのりHDが導入する218台の電気バスのうち158台は、同HD傘下で栃木県内にてバスを運行する関東自動車の宇都宮市内3営業所に配置されます(駒生営業所71台、簗瀬営業所53台、宇都宮営業所34台)。これは、「宇都宮市内を走る路線バスのほとんど」(みちのりHD)に相当するといい、1都市全体で電気バスを普及させる日本初の事例になるそうです。

 残りの電気バスは福島交通の大槻営業所(郡山市)、茨城交通の鯉渕営業所(水戸市)に30台ずつ配置されますが、「様々な地理的要素のある場で実証を行うことで、EMSの完成度をより高いものにする」(松本CEO)ことが目的とのこと。主眼は、50万人都市の宇都宮を舞台にバスEMSのモデルを構築し、他の地方都市へ横展開させていくことにあります。

 また、導入する電気バスは新車であり、国産のフルフラット電気バスを主体とすることも明らかにしました。このバスは、いすゞと日野の合弁会社であるジェイ・バスが2024年度から生産する予定です。

舞台は宇都宮 1都市まるまる路線バス「電気バス化」 みちのりHD&東電 日本初の実証
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会見するみちのりHDの松本 順CEO(中島洋平撮影)。

 みちのりHDと東電HDは今後、2024年までに10台程度を導入し、バスEMSを構成する要素技術を開発。

その後は2027年にかけ営業所単位で車両を置き換えるなど、年40台ペースの導入へと加速し、2030年までに宇都宮市全体へ電気バスをいきわたらせます。そのうえで、国内外へバスEMSの普及を加速させるとしています。

 ちなみに、記者からはカーボンニュートラルの手段として水素を燃料とするFCバス(燃料電池バス)などはどうなのか、という質問もありましたが、「世界の趨勢としては、短距離の路線バスは電気バス、長距離バスは水素、という棲み分けが定まりつつある」(松本CEO)といい、ローカルで対応できる電気バスに比重を置く考えを示しました。

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