バス乗務員に特化した求人イベント「どらなびEXPO」が開催。会場では、バス業界を目指す人や採用側のリアルな声が聞かれ、そして課題も浮き彫りになりました。
バス業界では、10年ほど前から、乗務員不足が大きな課題となっています。コロナ禍で落ち込んだ需要の回復が進み、乗務員採用の動きも再び活発になってきた2022年10月、バス乗務員に特化した求人イベント「どらなびEXPO」が、各地で開催されています。
バス業界の人手不足は大きな課題。高齢者や外国人の活用にも限界がある。写真はイメージ(画像:写真AC)。
「どらなびEXPO」は、バス乗務員専門の求人情報サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」によるリアルな求人イベントです。東京と大阪で年に2回、名古屋で年1回開催されており、今シーズンは、10月1日に大阪、15日に名古屋で開催されました。
大阪、名古屋の両会場とも、バス乗務員を目指す多くの参加者が集まりました。事業用バスの運転に必要な大型二種免許を既に持っている人が約6割、未保有者が4割ということです。また東京では、10月29日に開催予定です。
いずれの会場でも、参加者が各社のブースを訪れ、採用担当者や先輩乗務員から、業務内容や待遇などの説明を聞く姿が見られました。大阪の会場では南海バス、近鉄バスや西日本ジェイアールバスなど、名古屋の会場では名鉄グループ各社やジェイアール東海バスなど、地元の私鉄系やJR系の大手バス事業者が中心ですが、神奈川中央交通や名鉄バスが大阪に、遠州鉄道が名古屋に出展するなど、遠方からの出展もありました。
人気の会社のブースでは、面談の順番待ちのカードを配布しているところや、いすを並べて数人にまとめて説明する形式を採っているところもありました。
このほか、各社ブースのある会場とは別のステージ会場では、国土交通省の担当者が出席。参加者へエールが送られた後、いろいろな講座が展開されました。
ステージではまず、「どらなび」の運営会社であるリッツMCの佐藤昭平経営管理本部長が登壇し「知っておきたいバス業界の基礎知識」を説明。バス事業者は全国に5000社程度があるものの、そのうち車両数が101台以上の事業者は、路線バスや高速バスを運行する乗合バス事業者で約8%、貸切バス事業者では0.5%しかない、とデータを示しました。
人気の差が生まれる背景バス業界は、ごく一部の大手事業者と、それ以外のほとんどを占める中小・零細事業者によって構成されている――そう聞くと、ブースの規模や、ブースごとの人気の差がわかる気がしました。働く側から見ると、会社の規模は安定性の面で重要な基準の一つです。日頃の安全運行の態勢や、従業員の待遇にも大きな差がありそうです。
このイベントの出展者を見ると、100台単位の営業所を何か所も構える、大手の事業者が中心です。なかには、あまり名は知られていないものの、実は世界的な自動車メーカーやその協力企業の工場の従業員送迎バスを手広く請け負っている、といった貸切バス事業者も見られました。
「センスがないと伝えないといけない時もあります」

会場の様子。
リッツMCの中嶋美恵社長が、入社試験対策を披露するコーナーでは、筆記試験、実技試験の傾向や、面接の対策を説明。
さらに、乗務員によるトークセッションもありました。大阪、名古屋とも、進行役は「どらなび」のサービス全体を監修している、高速バスマーケティング研究所の成定竜一代表が努めました。
大阪の会場では、エムケイ観光バスの辻智史さんと、西日本JRバスの小林郁人さんが登壇。ベテランの辻さんには、「指導役として、新人の運転技術がいま一つと感じた場合どうするか?」と質問が飛びました。「理屈を説明し、クルマの物理的な動きを理解してもらえば、だいたい上達します。どうしても上達しない人には、厳しいですが、センスがないと伝えないといけない時もあります」とのこと。
若手の小林さんは、「ハンドルやブレーキの操作、対向車の確認の仕方一つとっても、一生かけて取り組めるテーマ。毎日同じ作業に見えても、自分の成長を実感できます」と、参加者に呼びかけました。
ツアーバスのやりがいは「最後の拍手」 女性乗務員のリアル名古屋の会場では、3人の女性乗務員が登壇。乗務員になったきっかけを聞かれ、3人とも「運転が好きで、接客も好きだから」と声を揃えたのが印象的でした。
三重交通の石井美香さんは「お年寄りがご乗車の際などに、運転席を離れて乗車をお手伝いすることがある」と地域密着の路線バスならではの使命感を語り、名阪近鉄バスの大熊満希子さんは「長い行程のツアーで最後のご挨拶をする際、車内から拍手をいただくときが嬉しい」と、貸切バスのやりがいを紹介しました。
「今後、女性乗務員を増やすにはどうすればいいか」という質問に、豊鉄バスの佐竹鈴美さんは「子どもが小さい間、早番の日に保育所へ送迎できず困った」とし、勤務シフトへの配慮が必要だと言います。「女性はずっと特別なシフト」である必要はなく、子育て期間に限った措置で十分だが、家族構成に合わせた勤務時間帯が配慮されれば働きやすいと指摘しました。
「女性乗務員を増やす」対応待ったなし!

名古屋会場での「女性運転士のトークセッション」。
わが国全体で見ると、少子高齢化の進展により、生産年齢人口(15歳から64歳の人口)は、ピークだった1995年に比べ約15%も減少しています。経済ニュースで「人手不足」の文字を見ない日はないほど、どの業界でも働き手が足りません。
一方でバス乗務員の総数を見ると、規制強化により1人が1日に運転できる時間や距離の制限が厳しくなったことなどもあり、1998年からの20年間で約2割増加しているのだとか。国全体で働き手が不足するなか、必要とされるバス乗務員の数は増えています。
しかし、バス業界は外国人や高齢者の活用には限界があるわけで、女性の参入が不可欠です。女性が働きやすい環境を作り、全乗務員中わずか2%程度とされる女性乗務員を増やすことの重要性は、会場内の多くの関係者から聞かれました。
高速バスマーケティング研究所の成定さんによると「今回のイベントは、現にバス乗務員を目指している人たちが、相性のいい会社を選ぶ場。納得して入社すれば、定着率も上がるだろう」と話します。一方、「志望者の総数を増やすには、バス乗務員という仕事の魅力を積極的に発信する必要がある」とも。