カナダ海軍のハリファックス級フリゲートにて運用が始まったばかりの艦載ヘリCH-148「サイクロン」は、なによりその大きさが特長で、海自や米軍の艦載ヘリよりも大きいといいます。ただ、その使いみちはまだ試行錯誤中のようです。
2022年10月21日(金)、インド太平洋地域に長期展開中のカナダ海軍フリゲート「バンクーバー」と「ウィニペグ」が、広島県にある海上自衛隊呉基地に入港しました。同日に開催された記者会見に臨んだ「バンクーバー」の艦長であるケビン・ホワイトサンド中佐は、同艦と「ウィニペグ」に搭載されているとある最新装備に関して、次のように強調しました。
「優れた技術、優れたレーダーシステム、優れたセンサー能力により、艦艇の能力の限界を引き上げることができる存在であり、非常に優秀な装備です」
ここでホワイトサンド中佐が言及した装備とは、両艦の艦尾にある格納庫に収められたカナダ空軍の艦載ヘリコプターである、CH-148「サイクロン」です。
カナダ海軍の艦載ヘリCH-148「サイクロン」(画像:カナダ軍)。
CH-148は、2018年からカナダ海軍の艦艇で本格的な運用が開始されたばかりの最新鋭ヘリコプターで、艦載ヘリながら所属は上述のように空軍になります。アメリカの航空機メーカーであるシコルスキー社の大型汎用ヘリコプターS-92をベースに開発された軍用タイプの機体です。
カナダ空軍では、これまでCH-124「シーキング」を約50年間にわたり運用してきましたが、老朽化にともない整備や運用が困難になったこともあり、その後継機として配備が開始されたのがCH-148です。合計28機の導入が予定されており、対潜・対水上戦から情報収集、輸送、捜索救難まで幅広い任務を実施可能な多用途ヘリコプターです。
CH-148の機内には対潜戦および対水上戦用のコンソールと、海中の潜水艦が発する音を探知するための装備として、吊り下げ式ソナーである「ヘリコプター用長距離アクティブソナー(HELRAS)」とソノブイを搭載可能で、一方機外には、機首部に昼夜問わず水上の目標を探知する光学・赤外線カメラと、下面に多機能レーダーをそれぞれ装備しています。
最大の特長はそのサイズ!特に、機外に搭載されているセンサーが捉えた情報は艦艇側とリアルタイムに共有可能で、これによりCH-148は夜間でも不審船舶などを発見しその情報を艦艇に送信することを可能としており、艦艇にとってのまさに「空の目」としての役割を担っているのです。
こうしたCH-148の機能は、2018年以来カナダ海軍が毎年、実施している、北朝鮮船舶による東シナ海など洋上での違法な物資のやり取りである「瀬取り」に対する監視活動においても非常に役立っています。

カナダ海軍フリゲート「モントリオール」にて、海上でのホバリング飛行中の給油テストに望むCH-148「サイクロン」(画像:ロッキード・マーチン)。
このCH-148の最大の特徴は、その機内スペースの広さです。海上自衛隊で運用されている艦載ヘリコプターのSH-60Kと比較すると、全長などに関しては大きな差はないものの、機内スペースはCH-148の方が圧倒的に広く、たとえばSH-60Kの最大乗員数が12名であるのに対して、CH-148は22名と約2倍の人員を乗せることが可能です。
機内スペースが広いということは、当然、一度に多数の人や物資を輸送することができるということです。平時はもちろん、災害時の「人道支援・災害救援(HA/DR)」や、有事における人員や物資の輸送任務において非常に重要な意味を持つことになります。
ちなみに、CH-148のベースとなったS-92は、2020年まで警視庁でも離島などを含む地域への人員輸送ヘリとして運用されていました。
目下「新車」でなにができるのか確認中また、CH-148は「ブロック化戦略」と呼ばれる段階的な能力向上により、機体に搭載されている各種システムやソフトウェアの改修などが行われます。
2022年10月現在の最新バージョンは「ブロック2」で、機体構造の強化や搭載する電子機器類の能力向上が行われるといい、これにより悪天候下や脅威度の高い地域での活動も安全に行うことができるようになります。

呉に入港したカナダ海軍フリゲート「バンクーバー」(2022年10月21日、稲葉義泰撮影)。
冒頭で紹介したホワイトサンド中佐は、CH-148についてさらに次のように述べています。
「CH-148に関して最も重要なことは、これがまるで新車を手に入れたようなものであるということです。乗りなれたクラシックカーであればあらゆることを理解していますが、新車を手に入れた場合には、まずはそれについて学ぶことから始めなければなりません。そのため、カナダ軍ではまだCH-148についてあらゆることを学んでいる段階です。

カナダ海軍フリゲート「バンクーバー」のケビン・ホワイトサンド艦長(写真左)はCH-148について「能力は並外れたもの」と評する(2022年10月21日、稲葉義泰撮影)。
この発言からも分かる通り、カナダ軍ではCH-148に関して現在、その機体性能や、それに基づいて可能となる運用方法について試行錯誤をしている段階と言えます。しかし、同時にCH-148に関して非常に大きな期待を寄せていることも分かります。
今後、インド太平洋地域へ展開するカナダ艦艇にCH-148が搭載される機会も増えていくと思われますが、その運用の幅がどう広がっていくのか、注目されます。