JALが打ち出した国際線専用LCC「ZIPAIR」にはどのような強みがあるのでしょうか。今回、実際に搭乗してみたところ、フルサービスキャリアを超えるような設備もあり、「LCCらしからぬ」充実した客室の工夫も凝らされていました。

LCCだけど席は「狭くない」!サーチャージもナシ!

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で大きく制限されていた海外渡航が、大幅に緩和されましたが、そうしたなか、いよいよ勢いを増しつつあるエアラインが「ZIPAIR Tokyo」です。コロナ禍の真っ只中、2020年にJAL(日本航空)のグループ会社として、国際線へ就航しています。

 このZIPAIR、利用者目線ではどのような航空会社なのでしょうか。今回実際に搭乗してみました。

JALの国際線LCC「ZIPAIR」が有能すぎた件 燃油代な...の画像はこちら >>

ZIPAIR機(画像:ZIPAIR Tokyo)。

 ZIPAIRは、いわゆるLCC(格安航空会社)に分類される会社です。成田~シンガポール線の場合、片道運賃は最安1万8660円から。筆者が搭乗したときの価格は、2万8311円(シンガポール→成田)でした。またJALなどのフルサービスキャリアの多くで採用されている、燃料費を運賃に上乗せする「燃油サーチャージ」も同社にはありません。となると現在は、他社と比べてもかなり安く海外へ行ける手段であるといえます。

 サービス内容も基本運賃の場合、機内で飲食物の提供はなく、オプションで頼むか持ち込みをするスタイルです(アルコール類は持ち込み禁止)。また、フルサービスキャリアでは可能な予約便の変更も不可。

預け手荷物や座席指定もオプションとなります。

 ただその一方で、世間一般的なLCCと比較すると、「LCCらしくない」ポイントも。今回搭乗したエコノミークラス、「Standard」は、座席の前後約79cm、幅(肘掛け間)43cmのスペースが確保されており、これはLCCとしてはかなり広い部類に入ります。イメージとしては、フルサービスキャリア国内線と同じくらいの座席の広さで、窮屈さを感じることはあまりありません。また、リクライニングもかなり効く印象で、前の人が座席を倒しても、シートの機構が工夫されているからか、圧迫感を感じづらいようになっています。

 ちなみに上位クラスである「ZIP Full-Flat」はフルサービスキャリアのビジネスクラスさながらのフルフラットシートが採用されており、こちらは同路線の場合、片道運賃5万3660円からとなっています。

 しかし、そのような“乗り心地に秀でたLCC”であるZIPAIRの座席には、多くの航空会社の国際線仕様機でスタンダードな、ある設備が存在しないのです。

機内の時間つぶしの相棒ナシ! でも退屈じゃない理由

 ZIPAIRの座席には、全席にUSBポートと電源コンセントが設置されています。その一方で、座席の個人モニターが設置されていないのです。モニターは座席だけではなく、客室の共用部にいたるまで、ほぼすべて取り払われています。

 これは、飛行機の重量をより軽くするためとのこと。ZIPAIRによると、一般的なボーイング787より、座席数を増やしながらも約500kgの重量削減に成功したそうです。

重量が減る=少ない燃料で運航ができるので、運航コストの削減、ひいては低運賃の実現にも繋がります。

JALの国際線LCC「ZIPAIR」が有能すぎた件 燃油代なし!? モニターなし7時間も「退屈じゃない」ワケ
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成田空港に到着したZIPAIR機(松 稔生撮影)。

 とはいえ、モニターがない機内ではあるものの、「機内が退屈か」というと、そうでもありません。

 国内フルサービスキャリアでも、国際線では有料となっている機内Wi-Fiを、ZIPAIRでは無料で提供しているのです。自分のスマートフォンなどを用いてSNSなどもできますし、映画などがラインアップされている同社のビデオプログラムをスマートフォンで見て過ごすこともできます。また、ドリンクなどのオプションのオーダーも、自身の端末から実施するシステムです。

 ちなみに、シンガポールは飲み物の物価が日本より高く、空港内の売店だとミネラルウォーターは2.3シンガポールドル(240円)、ビールなどは6ドル(627円)します。また、発着するチャンギ国際空港は、出国検査通過後の搭乗ゲート前に保安検査場があり、そこで飲み物などは廃棄となってしまいます。ZIPAIRの機内販売では、水が250円、缶コーラが300円、缶ビール500円といった価格帯なので、とくに海外発のケースでは、機内販売のドリンクが重宝しそうです。

 シンガポールから成田までのフライト時間は約7時間。シンガポールを現地時間夜23時に出発し、成田へ翌朝に到着するスケジュールです。夜まで現地で観光などを楽しんでから日本へ帰れるのもポイントでしょう。

 JALが生み出した、日本初の国際線専門LCC、ZIPAIR。運賃こそ手頃ながら、フルサービスキャリアを超えるような設備も見られるなど、決して「運賃が安いから乗り心地が悪い」とは思わせないような工夫が随所に施されています。同社は成田空港を拠点に、シンガポール以外にもバンコクや台北、そしてホノルル、ロサンゼルス、サンノゼ(12月から)といったアメリカ線も就航しています。こういった就航地では、ZIPAIRが今後、旅行者にとって非常に有用な選択肢となりそうです。

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