2016年から量産機の本格運用が始まった航空自衛隊のC-2輸送機。入間基地では2022年航空祭が初お披露目でしたが、すでに海外への飛行実績も数多く持っており、昨年はドバイ・エアショーへ出展すべくUAE(アラブ首長国連邦)へも向かっています。

海外への飛行実績を積み重ねる国産輸送機C-2

 2022年11月3日に埼玉県の航空自衛隊入間基地で開催された「入間航空祭」で目玉となっていたのは、2020年から同基地へ配備された国産輸送機C-2の展示飛行でしょう。新型コロナウィルスの流行によって、自衛隊関係のイベントは軒並み自粛となったため、初配備から2年経ってようやく地元での展示飛行が可能となりました。

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ドバイ・エアショーで展示されたC-2輸送機。鳥取県美保基地所属の204号機(布留川 司撮影)。

 入間航空祭では初お披露目となりましたが、C-2自体は2016(平成28)年から導入が始まった機体であり、入間基地より先に配備された鳥取県美保基地の第403飛行隊ですでに数多くの実績を積んでいるため、その姿は決して珍しいものではありません。さらに、C-2は海外での任務やイベント参加も行っており、その青い機体の姿は海外の人たちにも見られているのです。

 ニュースにもなった最近の任務でいえば、2021年のアフガニスタンにおける政権崩壊にともなう在外邦人輸送のため、同国のカーブル国際空港まで飛行したことが挙げられるでしょう。2022年にはロシアによるウクライナ侵略に対応して、UAE(アラブ首長国連邦)に備蓄された支援物資を東欧ポーランドまで輸送しています。

 イベント参加としては、2018年のイギリス「ロイヤル・インターナショナル・エア・タトゥー」、2019年のオーストラリア「アバロン・エアショー」のほか、UAEで隔年開催されている「ドバイ・エアショー」には2017年から3回連続で参加しています。入間航空祭のちょうど1年前、2021年11月に開催された「ドバイ・エアショー2021」では、前出した第403飛行隊のC-2が派遣され、同イベントにおいて初めての展示飛行も実施。これは中東地域におけるC-2初のデモ飛行にもなりました。

ドバイ・エアショーへのC-2出展のワケ

 海外エアショーでレギュラー的に参加しているのは「ドバイ・エアショー」だけですが、なぜこのイベントにここまで熱心に参加しているのでしょうか。

それはUAEが、C-2輸送機の輸出(正確には防衛装備移転)先として有力視されているからです。

 日本政府は2014(平成26)年に、従来の「武器輸出三原則」を見直し、新たな基準として「防衛装備移転三原則」を制定しました。これによってC-2のような完成機の輸出も可能となったのです。

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UAE空軍のC-17輸送機。後方にはC-2輸送機の姿が見える。この配置だったため、結果的にC-2の見学者も増えた(布留川 司撮影)。

 その後、2016(平成28)年にUAE空軍の司令官であるイブラヒム・ナッサー・M・アル・アラウィ少将が岐阜基地を訪れてC-2に試乗し、同時に日本との防衛装備の技術協力に関心を寄せていることも表明。これにより、UAE空軍がC-2の輸出候補として注目されるようになり、製造会社である川崎重工も輸出を目的としたプロジェクトチームを立ち上げ、防衛装備庁もこれをバックアップするに至っています。

 UAE空軍は舗装された滑走路以外での運用、すなわち不整地での離着陸能力を求めているため、2020年には岐阜基地内で非舗装滑走路を用意して試験を実施しました。さらに、「ドバイ・エアショー」の会場では英語ナレーション付きの海外向けプロモーション動画(動画タイトルは「威風」)を作成し、オリジナルデザインが施されたパッチ(ワッペン)や英語表記のパンフレットを配布するようになっています。

 加えて展示エリアには、軍人や政府関係者とクローズドな打ち合わせが行える防衛装備庁専用のシャレー(ミーティングルーム)も設けていました。このように「ドバイ・エアショー」へのC-2参加は、単なる外交的なアピールだけでなく、日本の防衛産業や外交も関わった一大イベントにまで昇華しているといえるでしょう。

ドバイ行って感じたC-2を取り巻く空気感

 筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は、2021年の「ドバイ・エアショー」は現地へ赴き、C-2ブースをこの目で見てきましたが、同機は現地政府や軍関係者だけでなく、来場した一般人にも好評だったように感じました。C-2は大型機の特性を生かして、貨物室内を開放して機内を見学できるようにしていましたが、会場でひときわ目を引いていたUAE空軍のC-17「グローブマスターIII」のすぐ後ろに展示されたことも手伝って、機内見学の列が絶えることはありませんでした。

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C-2輸送機の機内公開は、多くの地元の人々で賑わっていた(布留川 司撮影)。

 C-2の貨物室内には電光掲示板があるのですが、ここにはアルファベットで「KAWASAKI C-2」と表示し、奥の壁には日の丸も掲げられていました。日本の輸送機だと知らずに訪れた人も多く、航空機以外の製品で有名な「カワサキ」製と聞いて驚く人も多かったようです。来場者は航空自衛隊の隊員と会話したり、スマートフォンで一緒に記念写真を撮ったりするなどして、C-2見学だけでなく、人間同士の交流も楽しんでいました。

 その後、UAE空軍との交渉は継続して進められているようですが、C-2の海外輸出は残念ながら未だに達成されていません。しかし、「ドバイ・エアショー」への継続した参加はUAEを含む中東地域における日本の存在感のアピールにも繋がっており、これまでの輸出を目指して行ってきたことは、今後の防衛協力だけでなく、日本とUAEの関係にも良い影響を与えるかもしれません。

 入間航空祭と「ドバイ・エアショー」、同じC-2が同じ展示飛行をしても、そこに込められた思いや期待は大きく異なるようです。

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