ロシアによる軍事侵攻により破壊された「世界最大の飛行機」An-225「ムリヤ」には、An-124「ルスラン」という姉妹機が存在します。「量産型で世界最大」とされるこの機も、多くの特徴をもつ飛行機です。

過去には171.219 tの貨物を搭載

 2022年、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で破壊された、世界で1機のみ現存した「世界最大の飛行機」、An-225(AN-225)「ムリヤ」。この機には、実は姉妹機が存在します。それが、1982年12月24日に初飛行した、旧ソ連のアントノフ設計局が開発の輸送機、An-124(AN-124)「ルスラン」です。こちらも、量産化された飛行機としては「世界最大」ともされています。

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アントノフAn-124「ルスラン」(画像:Antonov Company)。

 An-124「ルスラン」は、「ムリヤ」と同じく胴体上部に主翼を配置したスタイルで、大きさは全長約70m、全幅約75m。世界最大とされるのはその搭載重量で、現状のスペックとしては150tを搭載できるとのこと。ただ、過去には171.219tの貨物を搭載し高度1万メートル以上を飛んだこともあり、こういった搭載重量系のギネス記録をいくつも打ち立てています。冒頭の「ムリヤ」に注目がいきがちですが、こちらも“規格外”の飛行機ということができるでしょう。

 この巨大機の開発は1960年代までさかのぼります。

 ソ連は1965年に「世界初のワイドボディ輸送機」という触れ込みで、An-22「アンテイ(アンテウス)」をデビューさせました。しかし1970年には、ソ連の対立国であるアメリカが、巨大な収容力を強みとする戦略輸送機C-5「ギャラクシー」の運用をスタートさせます。

「アンテイ」を上回る収容力をもつ機体が、ライバル国から出現してしまったのです。

 こうした経緯からAn-124「ルスラン」は、ライバルであったアメリカを強く意識して出来た輸送機とされ、大きさだけでなく、C-5「ギャラクシー」とよく似た外形・スペックとなりました。全長こそC-5「ギャラクシー」のほうが長いものの、重量や全幅、貨物室の容積といった多くの面でAn-124「ルスラン」に軍配があがり、「世界最大」の称号をほしいままにしたのです。

実は「大きい」だけじゃない「ルスラン」の凄さ

  An-124「ルスラン」はウクライナ・キーウ(キエフ)で試験機が製造され、地上に留め置いた状態での各種試験が6万時間実施されました。世界初の取り組みとして、これらの試験をすべて1機の試験機のみで対応。このことで、開発コストを大きく下げることができました。

 その後An-124「ルスラン」は、まずソ連空軍に軍用機として配備されると、その比類なきキャパシティから、なんでも運べる輸送機としてその能力を発揮します。また標準時の航続距離は1万5700kmではあるものの、2万151 km を25時間30分かけて直行便を運航し、航続距離の世界記録を打ち立てたこともあります。

 ただその後1991年にソ連が崩壊。それにともなってこの機は生産が一時中断されましたが、旧アントノフ設計局の系譜をくむアントノフ社がウクライナの航空機として、2004年までに55機を生産しました。

露が破壊「世界最大の飛行機」には姉がいた? こちらも超巨大&超スペックのギネス級輸送機 今も飛ぶ
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アメリカ空軍のC-5「ギャラクシー」(画像:アメリカ空軍)。

 An-124「ルスラン」は現在も、その圧倒的な収容力を軍用輸送以外にも生かしています。

民間航空の貨物機としても運用され、大型貨物の輸送を担当。そのひとつにアントノフ社の系列であるアントノフ航空(An-225の運用者でもある)のものがあり、日本では同社の「ルスラン」が中部空港によく飛来しています。

 なお冒頭で、An-124「ルスラン」はAn-225「ムリヤ」と姉妹機といいましたが、「ルスラン」の設計をベースに、ソ連版の宇宙船を搭載すべく、さらなる大型化やエンジンの増備などを図ったのが、「ムリヤ」です。「ムリヤ」はロシアにより破壊されてしまいましたが、この世界最大の飛行機の誕生までの経緯には、いまなお現役の「ルスラン」の存在が大きく関係していたのです。

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