自動運転サービスをめぐる輸送の安全確保に関する国の報告書案がまとまりました。運転手アリと同等の安全が求められているものの、その従事者は「運転免許不要」に。
2022年12月23日、国土交通省自動車局はバス、トラック、タクシーの運送事業で自動運転車両を使った場合の具体的な対策事項を盛り込んだ報告書案をまとめました。「輸送の安全確保等に関する検討会」では、車内外で不測の事態に備える「自動運行従事者」について、運転を行わないので「運転免許の保持」「酒気帯びの確認」は求めないとしました。この報告書案に沿って必要な法令整備が進みます。
自動運転バスの例。運転手がいないバスもすでに実用化されている(乗りものニュース編集部撮影)。
「自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保等に関する検討会」は、自動運転車両を使った運送ビジネスの安全確保要件を定めるための会議です。警察庁が担当するの道路交通法で、レベル4の自動運転を「特定自動運行」とし、従来の「運転」の定義から除いたことを受け、運送事業での安全対策を議論したものです。
特定自動運行では、運転は人が行わないため、運転者が行っている運行前点検や車内トラブル、事故対応など運転以外の業務を「自動運行従事者」(仮称)が行うこと。その運行従事者は運転を行わないため、次のような要件の考え方が示されました。
“「酒気帯びの確認」や「自動車運転免許の保持」は求めない”
“運転者と同レベルのアルコールや健康チェック、拘束時間等の労務管理も不要”
この検討会が論じる自動運転の対象は、遠い将来の話ではありません。2025年頃の実現を見据えた高速道路での自動運転トラックや、乗務員がまったく車両に乗り込まない遠隔監視の無人自動運転バスなども含んだ広範な自動運転を想定して、対策を網羅しています。
例えば報告書は、“自動運転車両を運行する事業者は、業務を確実に実施できる自動運行従事者をそろえなければならない”としています。しかし、“自動運転が実施される運送の形態、道路状況、車両の仕様などにより(必要な人数は)異なるため一律には問わない”とし、さまざまな自動運転車両が登場することを想定しているのです。
「運行管理者」とは全く違う? 「自動運行従事者」なるもの速度20km/h程度で移動困難地域だけを走る自動運転車両も、高速道路を走る自動運転車両も、同じ対策で大丈夫なのでしょうか。報告書を取りまとめた自動車局安全政策課は、こう話します。
「特定自動運行は、万が一の場合には直ちに自動的に安全な方法で車両を停止させることができることが定めているため、従事者が運転しなければならないことは想定していない。運転する必要があれば、運転免許を持たなければ運転はできない」
現状の運送事業では、運転免許を持っていても、運転以外の安全意識を高めるため、会社が運行管理者の資格取得を運転者に求める企業もあります。どんな人が“従事者”となるのでしょうか。
事故や負傷者対応は“乗客”がする??

国土交通省(中島みなみ撮影)。
自動運転従事者は、車内に乗り込む場合と、遠隔で見守る場合の両方があることを検討会は想定しています。どちらの場合でも、安全運行に関する基本的な考え方について、こう記しています。
“運転者が存在する場合と同等の輸送の安全等の確保”
“(外部委託などの)事業の形態によらない運送事業者の責任”
法律では、運転が自動か有人かに関わらず、「運送事業者が輸送の安全確保の責務を負う」とされています。ところが報告書には、交通事故や車内事故などを想定した、運転者不在でカバーできない対応を乗客に求める記載がありました。
“乗務員が車内にいない場合において、運送事業者が「すみやかな応急手当」を行うには、例えば自動運行ルートに応急手当のための要員を一定距離毎に配置することが考えられるが、事業性と安全性のバランスかの観点から、将来にわたって、事業者がこのような対応を継続することは難しいと考えられるため、「すみやかな応急手当」については、乗客または周辺の交通参加者にも協力してもらう必要がある。運送事業者による運送約款への明記、社会受容性の向上が必要”
「乗客が事故対応」の現実味利用者の自己対応を求める意見は、報告書のヒアリングでは、特に目立ちました。以下は自動車メーカーの意見です。
“地方においても事故時の駆け付け対応の体制を厚くしてしまうと、何のために無人化するのかわからなくなってしまう状況になる。一律に何分以内の駆け付けが必要であると規定されてしまうと、サービス展開に大きな支障が出かねる(※文章ママ)”
以下は自動運転サービス提供者の意見です。
“乗務員が同乗しない場合には、事故発生時において、乗務員ではなく遠隔からの救護となる旨、車内に明記し、納得してもらうことが必要ではないか”
自動運転の普及は、利用者がその必要性を許容する「受容性」が重要だとされます。検討会は有識者と事業者団体の委員で、2022年6月、10月、12月の3回にわたる会議で報告書が立案されました。