ヘリコプターを含む航空機では、整備や改修などアフターサービスを専門に行う事業者がメーカーとは別に存在します。ただ、アメリカとヨーロッパで規格が異なる場合などはどうしているのか。
世界には数多くのヘリコプター製造企業があり、それに合わせてメンテナンスや修理を行うサービス会社も無数にあります。クルマに例えるなら、トヨタやホンダなどの自動車メーカーに対して市井のディーラー、もしくは指定の修理工場といった感じでしょう。もちろんメーカーでも修理などを行っていることはあるものの、基本的にはメーカーとは別のメンテナンス専門企業が整備や修理に対応しています。
そういった企業ではどのようにヘリコプターの点検・整備を行っているのか。このたび、ほとんど見ることができないヘリコプター修理の最前線を垣間見るべく、朝日航洋株式会社川越メンテナンスセンター(以下、朝日航洋)を取材してきました。
埼玉県川越市にある朝日航洋株式会社川越メンテナンスセンター(乗りものニュース編集部撮影)。
そもそも、基本的なところで、ヘリコプターは、インチ規格を使うアメリカ系のメーカーと、メートル規格を使うそれ以外のメーカーに大きく分けられます。前者はおもにシコルスキーやベル、ヒューズ(MDヘリコプターズ)などで、後者はエアバス・ヘリコプターズ(本拠フランス)やレオナルド(同イタリア)などが該当します。
そのため、現場でインチとメートルの取り扱いを間違えると重大な事故が発生する恐れがあります。朝日航洋ではインチ系のヘリコプターとメートル系のヘリコプターの両方を取り扱っていることから、その対策について聞いたところ、そもそも、インチ系のヘリコプターを整備しているときは、担当者は当該機以外を整備することはなく、加えて機体ごとに専用の工具や治具を使うので、インチとメートルが混在することはないとのハナシでした。
なければ作っちゃえ! 整備の創意工夫資材他にも、ヘリの機種ごとに大きく異なる部分として挙げられるのがローターの回転方向です。
ただ、「もし変わりがあるとしたら……」といって挙げたのが、回転方向によりヘリコプターの操縦の応答性が違うという点。これについては整備員よりもパイロットの方が大きく影響する点なので、基本的に整備レベルでは、ほぼ関係ないということでした。

朝日航洋株式会社川越メンテナンスセンターの職員が設計したオリジナルの足場(乗りものニュース編集部撮影)。
実際のメンテナンス現場へ向かいます。実機をバラしているところを見学させてもらいましたが、ローターのてっぺんに手が届くように足場が組まれており、最も高いところでは地面からヘリコプターのローターまで3mから4mほどあり、思ったよりも高所で作業していることを実感できました。
そのような高い場所で安全に整備を行うには足場も専用のしっかりしたものが必要で、ヘリコプターメーカーは、自社開発の機種に対応する専用の「純正足場」を販売しているそうです。
しかし、アメリカやヨーロッパからそれら足場を輸入するとなると、輸送費用も相応にかかりコストが嵩みます。そのため朝日航洋では自分達で足場を設計し、国内の鉄工所に製作を依頼しているそうです。足場をよく見ると少人数でも移動できるように工夫がなされており、さらに使用してわかった改善点を後に作る足場へとフィードバックしていくため、新しい足場であればあるほど完成度が高いのが、素人目にも感じられました。
ユーザーの要望でヘリを改造しちゃうこともほかにも目を引いたポイントが、工具箱の中です。

朝日航洋株式会社川越メンテナンスセンターでは警察や自治体のヘリコプターの整備も請け負っている(乗りものニュース編集部撮影)。
ヘリコプター整備は大まかに機体全般、電子機器、エンジンやミッションの部門に分かれ、適切な工具を使い適切な手順で指定通りの整備を行います。この整備でメーカーから送られてきたパーツを使うだけではなく、メーカーからの指示により部材からパーツを作り出し取り付けることもあるとのことで、格納庫の一角にはそのための工作機械も備えられており、指定の金属板を切り出しプレス、磨き、塗装といった工程も行っていました。
こうして、必要に応じて現場で作ったパーツを取り付け、整備を終えた航空機(ヘリコプター)はテスト飛行を実施します。これで異常がなければユーザーにヘリコプターを納入する流れになります。
ちなみに、朝日航洋の川越メンテナンスセンターではヘリコプターの点検整備の他に、衛星通信用機材やカメラ撮影機材などを取り付ける改造も行っています。
このような改造が行えるのもヘリコプターに精通する高い技術力があってこそ。日々安全にヘリコプターが運航できるのは、ヘリコプターユーザーができないメンテナンスを行える会社があればこそだといえるでしょう。
こういった「プロフェッショナル集団」がいるからこそ、日々の安全運航に繋がっているのだと、取材を終えて筆者(齊藤大乗:元自衛官ライター/僧侶)は改めて感じることができました。