日本財団が主導する無人運航船プロジェクト「MEGURI2024」ステージ2が始動。日本の大手船社、サプライヤー、運航事業者が、無人運航に向けた各種実証実験を展開します。

その先にどのような“未来”が待っているのでしょうか。

空前絶後の規模になる無人運航船プロジェクト

 日本財団が推進している無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」のステージ2が本格始動しました。2025 年までに無人運航船の実用化を目指すプロジェクトには、大手海運会社や造船所、舶用メーカーなどが参画。今回は完全自動運航に対応したコンテナ船を新造し、改造した既存船と合わせて計4隻の船舶を陸上からコントロールするほか、移動型の陸上支援センターも開発し、災害時の緊急対応についても検証していく予定です。

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井本商船のコンテナ船「みかげ」。MEGURI2040ステージ1に続き、ステージ2でも無人運航実証実験に使われる(画像:商船三井)。

「船の無人化、自動化は、大きな社会課題の解決に繋がる一歩だ」。日本財団の海野光行常務理事は2023年7月20日にプロジェクトの発表を兼ねて行われたセミナーでこう話しました。財団は2040年までに内航船の50%を無人運航化するという目標を掲げています。

「少子高齢化の影響から、人手不足、担い手不足に繋がり、経済活動が低下するという懸念がある。厳しい海の職場は敬遠される傾向にあり、だいぶ人員確保が困難になってきた。いずれは内航物流が滞り、私達の生活にも影響が出て来る可能性がある」(海野常務理事)

 そのため将来にわたって内航海運や離島航路を維持し続け、ヒューマンエラーによる海難事故を防止するためには、避航操船や離着桟技術の向上を通じて、船舶の自動化や無人化を進めていく必要があるとしています。

 日本財団はまずプロジェクトのステージ1として、2022年1月から3月にかけて5つのコンソーシアムによる実証実験を実施。小型観光船「シーフレンドZero」や大型フェリーの「それいゆ」「さんふらわあ しれとこ」、内航コンテナ船の「みかげ」などを使用し、針路上で交差する可能性がある他の船や障害物を船上に搭載されたコンピューターが検知して避ける「自動避航」や、人の手による繊細な操船が必要な出入港の自動化といったことを、実際に運航する海域などで検証しました。

 これに続く「MEGURI2040」のステージ2では無人運航船を実用化し、社会実装を行うための技術開発とルール作りを進めていきます。そのため、大手海運会社の日本郵船、商船三井、川崎汽船や三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)といった造船所、さらにはNTTコミュニケーションズや三井住友海上といった国内51社がコンソーシアム「DFFAS+(Designing the Future of Fully Autonomous Ships Plus)」に参画しています。

「自動運転レベル4」相当で船を走らせる!

 具体的な取り組みとしては完全自動運航が一部可能な自動運転レベル4相当を目指し、(1)避航動作を含む輻輳海域での自動操船、(2)自動離着桟・係留技術、(3)遠隔からの複数船舶の同時支援、(4)より安定的な船陸間通信の確保――これらを実現するための開発を行いつつ、規制緩和を通じた継続的な社会実装の実現と、国際規格化による国際競争力の強化を図っていくとしています。

「ステージ1で遠隔支援したのは1隻のみだったが、今回は1か所の陸上支援センターで、複数の船舶を同時に制御する。

設置場所は兵庫県西宮市の古野電気。これに加えて災害時の緊急対応が可能なシステムを構築できるよう、移動型の陸上の支援センターも作ることを考えている」(海野常務理事)

 使用する船舶は既存船3隻、新造船1隻の計4隻で、全て自動運転レベル4に対応する機器を搭載します。

 このうち、国際両備フェリーの「おりんぴあどりーむせと」(942総トン)は離島航路船として、定期航路(新岡山港~小豆島土庄港)で9か月間の実証実験を予定しています。これにより離島航路で課題となっている船員不足を支える仕組みを作りつつ、離島住民の生活に必要なヒト・モノの安定的な輸送確保へ第一歩を踏み出すとしています。

 もう1隻は井本商運のコンテナ船「みかげ」(749総トン)。同船は第1ステージでも他の船を検出するセンサーとして使用しているAIS(船舶自動識別装置)とレーダーに加え、可視光カメラと夜間対応の赤外線カメラを搭載して実証実験を行いましたが、ステージ2ではより広範囲となる360度を監視できるようなセンサーを使用します。

 3隻目は川崎近海汽船のRORO船「第二ほくれん丸」(7097総トン)で、同船では漁船が多く霧も発生する海域において約20ノット(36.5km/h)の速力で自動運航を行うことが計画されています。

船乗りを“陸上のサラリーマン”に変える? 空前絶後の「無人運航船プロジェクト」第2段 規模感スゴイ!
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ステージ2の概要を説明する日本財団の海野常務理事(深水千翔撮影)。

 そして4隻目が、2025年8月の竣工を予定している新造コンテナ船です。既存船との違いは機関プラント監視や遠隔支援機能、そして係船機能を備えており、自動運航に必要な機能を最初から備えたフルパッケージ仕様となっています。

 今後、自動運航が実現し無人運航船が一般的になれば、船員は日本各地に置かれた陸上支援センターでも勤務できるようになります。陸上勤務が増えることで、サラリーマンのような働き方が可能になり、長期乗船や人員不足で増えていた負担を大きく軽減できるようになるでしょう。

日本の海運のあり方を変えるかもしれないプロジェクトが今、まさに行われています。