約70年ぶりとも言われる世界で唯一の新造「捕鯨母船」がついに進水。式典には林外務大臣も出席し、国際委員会を脱退しての商用捕鯨の再開と、クジラの食文化への思いを語りました。

見た目RORO船 載せるのはクジラ

 山口県下関市の旭洋造船で2023年8月31日、建造中の捕鯨母船「関鯨丸」の命名・進水式が行われました。竣工は2024年3月の予定で、捕鯨会社の「共同船舶」(東京都中央区)へ引き渡された後は、世界で唯一の捕鯨母船として捕鯨船団の中核を担うことになります。

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「関鯨丸」進水式(深水千翔撮影)。

 式典に出席した林 芳正外務大臣は「水産庁は国際捕鯨委員会(IWC)脱退後も科学的根拠に基づいて、どの海域でクジラを獲るか決めている」と述べつつ、「クジラという美味しいものを食べる食文化を下関でやってきた。これを日本各地へ広げていきたい。『関鯨丸』がしっかりと商業捕鯨で大活躍することを願っている」と期待感を示しました。

 捕鯨母船「関鯨丸」は商業捕鯨の再開を踏まえ、将来的なナガスクジラの捕獲も視野に入れた70トンの揚鯨能力を備える最新鋭の船として計画されました。発注者である共同船舶の所 英樹社長は「どんなクジラでも獲れる船にしている」と胸を張ります。

 総トン数は約9100総トンで、船体の大きさは全長112.6m、幅21m。太平洋のニタリクジラであれば、100頭分の製品が積載できるといいます。従来の捕鯨母船とは一線を画した船型で、自動車を運ぶRORO船のような見た目となっており、甲板上には探鯨用大型高性能ドローンのデッキを設けました。

 獲ったクジラをさばく解剖甲板は屋内に収め、衛生環境を改善。

保冷設備は作った分だけ冷凍設備を動かすという発想から、リーファーコンテナを使用します。このリーファーコンテナは20フィートコンテナで最大40個、800トン分搭載することができ、製品のロット管理と荷揚げを効率的に行えるようにしました。なお船室は全て個室化し、居住性を向上させています。

「この船はRORO船と基準としているが捕鯨母船として中に揚鯨、解体、加工、冷凍、保管の設備を作っていかないといけない。私も技術的に難しい船だと思う。旭洋造船にはぜひ良い船を作ってほしい」(共同船舶 所社長)。

電気推進で南極まで行ける!

 この船は推進システムも最新式です。発電機とモーターを組み合わせた電気推進方式を導入することで従来のディーゼル船に比べてクジラを引き揚げるスリップウエーの傾斜を緩やかにでき、船体のコンパクト化を実現しました。商業捕鯨では日本近海での操業がメインとなることから航走が少なくなるため、推進器のエネルギー効率のデメリットも緩和されるとしています。

 また、世界的に船舶の脱炭素化へ向けた取り組みが進む中、LNG(液化天然ガス)や水素、アンモニア、合成燃料といった次世代燃料の採用も見越した設計を取り入れています。航続距離は南極海に到達可能な7000海里(約1万3000km)。船価は70億円程度で、船籍港は下関です。

 建造を担う旭洋造船の越智勝彦社長は「共同船舶の捕鯨船隊の運営経験を基にさまざまな新しいコンセプトを盛り込んだ最新鋭の捕鯨母船であり、当社にとっても大きなチャレンジ」と語った上で、「下関を母港とするこの町のシンボルとして、また日本捕鯨を次代に伝える架け橋として大活躍する姿を想像しながら、竣工まで全身全霊をかけていく」と話しました。

船も仕事も世界唯一 今の船じゃダメ!

 共同船舶は世界で唯一、“母船式捕鯨”を実施している会社です。捕鯨母船「日新丸」(8030総トン)を中心とした捕鯨船団を組み、小型の捕鯨船が捕獲した鯨を母船である「日新丸」へと引き渡し、同船内の工場で加工して鯨肉原料を生産しています。安倍政権下の2019年に日本がIWCを脱退し、商業捕鯨を再開して以降、同社は排他的経済水域(EEZ)内でニタリクジラ、ミンククジラ、イワシクジラの3鯨種を対象とした捕獲、生産、販売を行ってきました。

 林外相は「一番のエポックとなったIWC脱退と商業捕鯨再開を安倍晋三総理(当時)に決断いただいた。当時、私は文部科学大臣で、閣内で安倍総理が決断していただくよう、走り回ったことを覚えている」と振り返りました。

 しかし、1987年に竣工した「日新丸」は、すでに船齢が35年を超えており、老朽化に伴って安全性が低下。毎年の修繕費も7億円に達し、会社経営を圧迫することになります。

 そもそも「日新丸」は遠洋漁業で使用するトロール船として建造したものを、調査捕鯨のため捕鯨母船に改造したという経緯があります。このためイワシクジラよりも大型のクジラを引き揚げることができないため、将来新たな大型鯨種を捕獲枠に加えるためには、相応の揚鯨能力を持つ新母船の建造が必須条件となっていました。

世界唯一!70年ぶり新造「捕鯨母船」ベール脱ぐ 電気の最新鋭船で“クジラ漁本格再開”外相もエール
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右から林外相、旭洋造船の越智社長、共同船舶の所社長(深水千翔撮影)。

 ただ、捕鯨母船自体が極めて珍しく、「『日新丸』と名付けられた大型の捕鯨母船は1951年以降、日本で建造されておらず、新造となると70年ぶりくらいになる可能性がある」(関係者)というほど。

これまでも新型の捕鯨母船を建造する計画があり、水産庁も交えて検討が進められたものの、船価や採算性の問題もあって立ち消えになっていました。

 こうした背景もあり、共同船舶にとって「関鯨丸」は待望の新造捕鯨母船。所社長は「関鯨丸は、30年は必ず活動する。これはつまり加工や販売を行うクジラ業界へ、30年間は鯨肉の供給責任を果たせるということだ」と語り、母船式捕鯨業を続けることの決意を新たにした。

「関鯨丸」は2024年3月の竣工後、5月から6月ごろに就航しクジラ漁に投入される予定です。