護衛艦や潜水艦はいったん港を出ると、容易に帰港できないため、ちょっとした故障は乗員たちで何とかしなければなりません。その片鱗が自宅のトラブルでもいかんなく発揮されました。
海上自衛隊は仕事場が海ということもあり、艦内の修理などは基本的に自分たちで行います。ドックなどでは民間企業が修理を担っていますが、基本的に自己完結型の技能集団なのが艦艇乗り。海の上(潜水艦は海中も)では部品の発注などできないため、日常におけるトラブルにおいては応急工作員、通称「応急さん」が中心となり艦のトラブルを解決していくといいます。
海上自衛隊の練習艦「はたかぜ」(画像:海上自衛隊)。
そんな海上自衛官が大黒柱の我が家で先日、風呂場のシャワーが壊れました。経年劣化ということもあり、水道業者に修理を依頼しようと思ったのですが、ここで海上自衛官の夫、やこさんの「待った」がかかりました。そして彼は、すかさず私(たいらさおり:漫画家/デザイナー)に、次のように告げたのです。
「これより故障探究に入る」。
艦などで故障箇所が発生すると、まず故障探究といって、どの時点で不具合が発生しているかという大もとを探っていきます。その間、もちろんお風呂には入れません。これはもう「真水管制」です。
真水管制とは、航海中に真水が少なくなると、風呂などを制限すること。
夫婦が連携して故障探究をしていると、その最中に水漏れまで発生。風呂場はさながら教育隊の防水訓練場のようになりました。艦に空いた穴から漏れる水を防ぐかのごとく、風呂桶で水を防ぎ、なんとか止水栓を閉めます。
半ばパニックになりながら「やっぱり業者を呼んだ方がいいんじゃ…」と私が提案するのと、やこさんの「故障探究の結果、切替レバーの故障と思われる。予備品あれば修理可能だが、予備品なしにつきETR(復旧見込み時間)不明」という結論がほぼ同時に出ました。この状態で故障の原因、わかったんだ……。

海上自衛隊幹部候補生学校における防水訓練の様子。船が浮遊物等に衝突し、穴が開いて浸水したり、配管に亀裂が入って漏水したりといったことを想定した訓練(画像:海上自衛隊)。
結局、カランは出るのでお風呂に入れないということはありませんでしたが、部品交換が必要ならやはり業者を呼ばなければと思っていたところ、翌日には直ったではありませんか!
なんと、故障当日に部品を取り寄せたやこさんが爆速で修理完了したのでした。
あまりの頼もしさに思わず感心してしまいましたが、そういえばこれまでも家電や家庭内の修理で業者を呼んだことがないような……。自己完結組織、おそるべしです。