クルマのブレーキの安全性を向上させたABS(アンチロック・ブレーキ・システム)。搭載が当たり前になってから長いですが、実はクルマ以外が先行していました。
メルセデス・ベンツは、他メーカーに先駆け、1950年代からクルマの安全性向上への取り組みを重視しており、数々の安全装置を開発しています。急ブレーキをした際に、タイヤがロックし滑ってしまうのを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)も1978年にメルセデス・ベンツが初採用したものです。
1970年代にABSをテストしている様子(画像:メルセデス・ベンツ)。
ABSという名称になる以前も、急ブレーキで車輪がロックするのを防ごうという考えはありました。まずドイツの車両部品メーカーであるボッシュが1936年に「ホイールロックを防止するメカニズム」の特許を申請しました。
ただこれは、鉄道車両用の物でした。鉄道車両は車輪がロックすると、車輪とレールが磨耗します。このため車輪外周に平坦面ができると、騒音を出してしまうため、ホイールロックを抑制する必要がありました。
航空機でも1947年にダンロップが特許を取得したことにより、同様のシステムが導入されます。航空機の場合は、タイヤがロックされると、バーストしてしまう危険性があったため、それを防止するための技術でした。
急ブレーキをかけるとハンドルが効かなくなるクルマにも、安全性向上のために同様のシステムを導入する試みは古くからありました。しかし、クルマは4輪あるため複雑な制御が必要となり、1940年代時点での技術では不可能でした。
その後、後輪のみのアンチロックシステムはアメリカの大型トラックなどには導入されましたが、4輪は機構が複雑になるため、アナログ回路では基盤が大きくなりすぎてクルマのスペースに収めることができませんでした。
電子技術の発達で搭載可能にこれを解決したのがコンピューターの発展でした。メルセデス・ベンツは、精密機器の製造を行っていたテルディックスを買収し、同社が研究していた当時最新鋭のコンピューター制御技術を結集して完成したのがABSです。
メルセデス・ベンツのABSは強くブレーキペダルを踏み続けるとセンサーが感知し、ブレーキの力をクルマ側が制御して、タイヤのロックを防ぐというものでした。最初はベンツのSクラスに装備され、BMW 7シリーズがそれに続きます。当時は高価なシステムだったため、高級車でなければ採用は難しいものでした。
日本では、1982年にホンダ「プレリュード」が搭載したことを皮切りに普及していきます。1990年代に入ると、ABSの製造技術まで含めた合理化設計を行うことでABSの値段が急激に下がり、クルマに標準装備される安全機構となります。
ABSの急ブレーキでもハンドルが効くのABS最大のメリット(画像:国土交通省)。
教習所で習うブレーキを複数回踏む方法「ポンピングブレーキ」はABSがあるから不要じゃないか、といった議論もよく起こりますが、それは、クルマ用のABSが案外長く実用化されなかったことと関係があるのかもしれません。
日本では、2013年にバスやトラック、トレーラーといった大型車にABSが義務化され、2014年11月以降に新型車、2017年2月には継続生産車も義務化が実施されています。

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