ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、停滞していた戦車の大火力化が進行しそうです。ただ、過去には現代戦車よりかなり大口径な砲を搭載した車体もあったとか。
世界最大級の防衛・安全保障関連の展示会「ユーロサトリ2024」がフランスの首都パリで開催されました。
会場には新たに開発された140mm砲を搭載する「レオパルト2 A-RC 3.0」や「EMBT-ADT 140」などといった試作戦車が展示されています。2年前に開催された「ユーロサトリ2022」のときよりも、ロシアによるウクライナ侵略を受け、大威力・長射程な戦車砲を搭載した新型戦車のニーズが高まっていることを予見させるような内容になっています。
ただ、振り返ってみると、世界にはさらに大きな砲を搭載した戦車が存在しました。
KNDSが開発した140mm砲搭載戦車「EMBT ADT140」(画像:KNDS)。
歴史上、量産戦車が載せた最大口径の砲は152mm砲です。ソ連とアメリカでそれぞれ作られ、前者はおもに第2次世界大戦で、後者はベトナム戦争や湾岸戦争などで実戦投入されています。
ソ連の152mm砲はKV-2重戦車が搭載しました。この戦車はもともと、ソ連とフィンランドのあいだで1939(昭和14)年11月に勃発した冬戦争時に、フィンランド軍陣地を突破するための火力支援用として開発されたもので、砲は既存の152mmりゅう弾砲を流用していました。発射速度は遅かったものの威力は十分で、その後起きた独ソ戦においても、侵攻してくるドイツ軍相手に火を噴き、局所的には進撃を阻止する働きを見せています。
ソ連重戦車を確実に撃破するために一方アメリカの152mm砲は、第2次世界大戦後に開発された「ガンランチャー」という砲弾と対戦車ミサイルの両方が撃てるもので、M60A2戦車やM551「シェリダン」空挺戦車が搭載しました。
しかし、ミサイルは撃ち放しではなく命中まで誘導し続ける必要があったほか、両方を撃てるようにするためシステムが複雑になり、車内にもミサイルと砲弾の両方を積む必要があったため、整備性が悪く使いづらいものになったそう。こういった理由から、以後のアメリカ戦車では採用されず、152mm「ガンランチャー」も一過性のもので終わっています。

152mm砲を巨大な砲塔に装備したソ連のKV-2重戦車(画像:ドイツ国立公文書館)。
ただ、これらは前述したように、あくまでも量産戦車に搭載された砲の中で最大なので、試作まで含めれば、イギリスの開発した183mm砲が史上最大になります。これは1950年代に試作されたFV4005駆逐戦車の主砲として開発されたもので、ソ連の強力なIS-3重戦車を撃破できる大口径砲として作られました。
しかし、FV4005駆逐戦車が試作で終わったため、183mm砲も量産されることなく終わっています。
規格外の大きさ! 史上最大の砲ここまで挙げた砲は、確かに冒頭の140mm砲より大口径ですが、主砲の威力はそれ以外に、「射程(射距離)」や「命中精度」、「発射速度」など様々な要素の複合的な組み合わせによって決まります。もちろん使用される砲弾によるところも大きいため、単純に比較はできません。

152mmガンランチャーを装備するアメリカのM551「シェリダン」空挺戦車(画像:アメリカ陸軍)。
なお、史上最大口径の砲は、第2次世界大戦末期にアメリカが開発した「リトルデーヴィッド」です。これは迫撃砲で、口径は36インチ(914mm)もありました。
しかし、試験中に日本が降伏し第2次世界大戦が終結したため、必要とされなくなった結果、1946(昭和21)年に開発中止となり、試作のみで終わっています。
ちなみに陸上自衛隊が運用する戦車は、90式戦車と10式戦車の2種類で、ともに120mm砲を搭載しています。このたびの「ユーロサトリ2024」で展示された140mm砲などを日本で目にする日は来るのでしょうか。