国の財政が厳しかった平成時代、自賠責保険の保険料運用益を、国の一般会計に貸し出したことがあります。総額1兆1200億円。
自動車ユーザーが必ず加入しなければならない自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の保険料は30年前、今よりずっと高額でした。自賠責保険の役割は変わりませんが、保険料の支払いを担保する仕組みが違っていたからです。「政府再保険」という仕組みで、保険会社が保険金を支払えなくなった場合に備えて、自動車ユーザーが支払った保険料の60%を準備金として、今の自動車安全特別会計に積み立てられていました。
加藤財務相(中島みなみ撮影)。
ここに注目したのが、財政難にあえいでいた財務省(当時の大蔵省)です。財務省は1994年度と1995年度の2年間に総額1兆1200億円を「特別会計から一般会計に繰り入れる」という形で借金をしたのです。
ところが、「臨時異例の措置」として短期間に全額返済されるはずだった返済の目論見は外れて、30年経過した借金は、半分しか減っていません。10月、新たに就任した加藤勝信財務相は現状認識について、次のように説明しました。「自動車安全特別会計から、繰戻しが行われてきた結果、現在、5806億円が繰入残高となっています」
100年返済、短期的見通しでしかないなぜ30年経過しても半分にしかならなかったのか。この点についても加藤氏に聞きました。
「平成16年度から29年度(2004-2017年度)については、一般会計から同特別会計への繰り戻しが行われなかった時期があります。ただこれも当時の一般会計の財政状況あるいは自動車安全特別会計の収支状況などを見て、財務省と国交省の間の協議の結果として合意したものと承知しております」
巨額すぎる借金の返済はその後、財務大臣と国土交通大臣(当時の運輸大臣)の「大臣間合意」で、毎年の返済額を定めることになりました。そのため合意があれば返済額0円でよかったのです。前述の13年間は、その期間でした。
このままだと「100年返済」毎年の返済額の目安が定められたのは、2022年、鈴木俊一財務相と斉藤鉄夫国土交通相で結ばれた大臣間合意でした。当時の合意について鈴木氏はこう述べています。
「令和4年度(2022年度)当初予算において、一般会計から自動車安全特別会計に54億円の繰戻しを行うとともに、令和5年度以降の一般会計からの繰戻しについて、令和4年度の繰戻し額の水準を踏まえること、繰戻しに継続的に取り組むことということで合意がなされているわけでありまして、この合意をしっかり守っていくということで、私としては一歩前進といいますか、毎年継続して行われる一つの基盤、約束ができたということなんだと思っています」
国土交通省は2025年度の返済額について例年同様、具体額を明示せず「一般会計から自動車安全特別会計への繰戻しに係る大臣間合意を踏まえた更なる増額」を、両省で協議するとします。大臣間合意では54億円というベースラインができていますが、多少増額されたとしても、完済までに単純計算で100年以上かかる計算です。大臣間合意の有効期限は5年間、2027年年度までです。
斎藤国交相。石破内閣でも続投となった(中島みなみ撮影)。
加藤財務相は、こう話しました。
「現在令和3年12月に財務大臣と国交大臣の協議の結果として、令和4年度の繰り戻し額が約54億円の水準を踏まえること、また繰り戻しに継続的に取り組むことなどが合意されていることですので、令和7年度の予算編成において、この大臣間合意に基づいて、適切に対応していきたいと思います」

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