「渋滞の名所」である中央道の小仏トンネル。2015年3月、その上り線に新たなトンネルを掘削し、渋滞を緩和させる方針が決まりました。

しかし下り線でも、新トンネルを掘削すべきかもしれません。上り線ほど激しくはなくとも、下り線の渋滞も大きな問題であるほか、その影響が中央道以外の路線へ波及している現状があります。

難しい都心側の渋滞対策

 中央道は、日本で最も渋滞が深刻な都市間高速道路です。首都圏の放射高速で都心寄りが4車線しかないのは中央道だけであり、山岳地を通ることから勾配やトンネルも多く、沿道には富士山を始めとする観光地も多数。特に週末、渋滞が深刻です。

 渋滞の名所は上り線が小仏トンネル、下り線が相模湖インター付近。どちらもほかの高速に比べると渋滞中の速度が遅く、ストレスの大きさは群を抜いています。また上り線の調布インター合流や深大寺バス停付近でもほぼ毎日、渋滞が発生しています。

 ほかの東名、関越、東北、常磐、東関東という5本の放射高速は、都心寄りがすべて6車線ですが中央道のみ4車線。これが混雑の根っこです。しかしだからといって八王子から都心寄りはもはや、用地買収を伴う拡幅工事など不可能。考えうる渋滞対策は、主に上野原~八王子間をどうするかでした。

 それについて2015年3月25日、国土交通省が結論を出しました。上り線で新たにトンネルを整備、車線を増やす対策案を了承したのです。

 国土交通省は、渋滞が頻発する小仏トンネル付近や調布インター付近について、道路左端の路肩を走行車線として再整備し片側3車線化。加えて路肩が狭い小仏トンネルは、近くに新たなトンネルを整備する方針です。

小仏と上野原で相乗的に悪化している渋滞

 ただトンネルの新規掘削は、完成するまで通常10年はかかります。そのため中央道の渋滞解消はまだまだ遠い道のりですが、対策の方向性は正しいと私(清水草一)は見ます。

 中央道上りの渋滞は小仏トンネルが先頭で、ここでの速度低下がすべての根源です。この渋滞の列が上野原インターより上流(甲府側)に伸びると、上野原インターでの車線減少(3車線→2車線)による合流抵抗で大きく速度が低下。時速10キロ程度でしか流れない、苦痛度の大きい渋滞になります。しかし小仏トンネルの通過速度さえ増せば、渋滞が上野原インターに伸びることが抑えられ、一気に渋滞緩和が進む理屈です。

 また路肩の車線への転用は、以前から私も主張してきた安価かつ早期完成が可能な手法です。その手法で2011年、東名高速の豊田JCT~音羽蒲郡間で「暫定片側3車線化」が実施され、大きな成果を上げました。

そのため国土交通省は、大都市部の渋滞が激しい区間に同様の手法を使うことを本格化させ、その最初の適用例に今回、中央道が選ばれたという流れになります。遅まきながら、画期的な進歩といえるでしょう。

 調布付近の拡幅については、これを実施しても渋滞の先頭が首都高永福ランプ付近にすべて集中するだけで当面、あまり効果は期待できません。しかし外環道東京区間が完成(約10年後?)すれば、拡幅部から外環道へ直接迂回することが可能になるため、こちらも納得の対策です。

なぜ上り線だけ? 考慮すべき圏央道の存在

 ところが今回行われる対策は上り線だけで、下り線については一切言及がありません。中央道下り相模湖インター付近を先頭にした渋滞は特に土曜日の午前中、きわめて深刻です。上り線側にはトンネルを掘るのに、なぜ下り線には掘らないのでしょうか。

 これについて国土交通省関東地方整備局は「乗りものニュース」編集部の取材に対し、「渋滞の状況を分析した結果、急務なのは上りでしたので、上りから対策しました。その後、下りの対策を検討いたします」とのことでした。

 確かに調布インター付近の渋滞は上りだけですが、小仏トンネル付近の渋滞は、下りも非常に深刻です。ドライバーの感覚としてはどちらも急務のはず。

 下り線が後回しにされた理由は、「中央道渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ」に提出された資料で判明しました。

この資料によると、休日の渋滞量は上りが「8630km・h/年」、下りが「3593km・h/年」で、2倍以上の開きがあるとされているのです。

 しかしこの資料には、重大な見落としがあります。どちらも中央道のみの渋滞量で、中央道下り線が渋滞した際、圏央道内へも渋滞が伸びていることについて、計算に入っていません。

 中央道下り相模湖インター付近を先頭にした渋滞が発生したとき、渋滞は八王子JCTを過ぎて延々伸びます。そして八王子JCTから中央道下りへ合流しようとする圏央道側でも、内回り・外回りともに、極めて速度の遅い渋滞の列が発生するのです。渋滞長は数kmでも歩くほどの速度でしか動かないため、ドライバーには非常に恐れられています。

 これを解消するためには、下り線にも小仏トンネルをもう1本掘削する必要があります。同時に下り線の八王子JCTから相模湖インターまで、路肩を転用して3車線化すべきです。

 2014年6月に圏央道が東名まで開通したあと、中央道の圏央道外側(山梨県側)の交通量が約1割も減りました。これはレジャー客が目的地を選ぶにあたり、渋滞のひどい中央道を避け、湘南など他方面に逃げたことが大きいと推測されます。それで交通量が減り渋滞が緩和されれば、それもひとつの改善ではありますが、道路事情のために避けられてしまっては「世界遺産」の富士山がもったいない限りです。

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