リニア中央新幹線のルートで初となる本格工事が、南アルプストンネルで着手されました。東海道新幹線における新丹那トンネルと同様、そこには中央新幹線全体に関わる大きな意味があります。
JR東海は2015年12月18日(金)、南アルプストンネル(山梨工区)で安全祈願を実施。リニア中央新幹線のルートで初となる本格的な工事に着手しました。
「この工事を安全に完遂する決意を今日、させていただきました」(JR東海、柘植康英社長)
最高速度500km/hの超電導リニアを用い、2027年に品川~名古屋間で開業予定の中央新幹線。ある関係者は「南アルプストンネルは『新丹那』」と話します。「新丹那(しんたんな)」は、東海道新幹線にあるトンネルの名前です。
東海道新幹線が伊豆半島の“付け根”を通る部分、静岡県内の熱海~三島間にある、全長7959mの新丹那トンネル。1959(昭和34)年の東海道新幹線着工にあたり、起工式が行われたのが、その新丹那トンネルでした。「新幹線の父」とも呼ばれる国鉄の十河信二総裁(当時)が起工式でクワを入れています。
この新丹那トンネルで起工式が行われたことには、東海道新幹線にとって大きな意味がありました。
「温泉余土」や断層に悩まされた丹那トンネル東海道新幹線が起工式を新丹那トンネルで行った理由、それはこのトンネルの進捗状況が、東海道新幹線全体の開業時期を左右する“最重要工区”とされていたからです。
その付近は火山地帯で、丹那断層をはじめとする複数の断層帯が存在。新丹那トンネルの前に、この場所で在来線の東海道本線・丹那トンネルを建設した際は「温泉余土」という膨張する困難な地質、大量の湧水などに悩まされました。
こうした背景から東海道新幹線はその将来を決める“最重要工区”として、新丹那トンネルで起工式を行いました。また昭和10年代半ばに、東京~下関間を高速鉄道で結ぶ「弾丸列車」の建設が始められた際も、困難が予想されたこの熱海~三島間のトンネルが最初期に着手されています。
ちなみに、弾丸列車計画で掘られたトンネルは戦況の悪化により建設が中断されますが、そのときのトンネルを昭和30年代に東海道新幹線へ流用。建設を再開し、新丹那トンネルになりました。
新丹那と南アルプスが共通して持つ大きな意味「南アルプストンネルは1000mを越える土かぶり(地表より1000m以上深い場所を行くこと)、多い湧水、複雑な地層など、難しさはいくつかあります」(大成建設、村田誉之社長)
リニア中央新幹線のルートで初の本格的な工事として今回着手された南アルプストンネルは全長2万5019mで、標高3000m級の山々がそびえる地域を通過。地表より最大でおよそ1400mも深い場所に穴を掘ることになります。また、大量の地下水発生も考えられることから中央新幹線建設における最難関ともされており、工事の進捗状況が中央新幹線全体の将来へ影響してくる可能性があります。
「中央新幹線の課題で一番大きいのは南アルプストンネル、その工事の難しさ」(JR東海、柘植康英社長)
すなわち、中央新幹線の南アルプストンネルは東海道新幹線における新丹那トンネルと同様、その行く末を握る“鍵”であり、今回そこで中央新幹線のルートで初の本格工事が着手されたことには、そのトンネルのみならず、中央新幹線全体にとって大きな意味があるのです。
「中央新幹線の未来を占う」としても過言ではない南アルプストンネル、その工期は約10年間の予定です。また、品川~名古屋間が開業し超電導リニアL0系が同区間を40分で結ぶのは現在から12年後、2027年が計画されています。
「10年という長い道のりではありますが、工事の安全、環境の保全はもとより、地域の皆様としっかり連携をとって、この難工事を社をあげて乗りきっていきたいと思います」(JR東海、柘植康英社長)
なお在来線の丹那トンネルは大変な難工事でしたが、東海道新幹線の新丹那トンネルは技術の進歩などから順調に工事が進行。1964(昭和39)年10月1日、予定通り「東京オリンピック」の前に、初代新幹線0系が“世界初の高速鉄道”として営業運転を開始しています。