宅配バイクとして不動の地位を誇るホンダ「ジャイロ」シリーズ。当初は斬新な「新感覚の乗りもの」とうたわれた、ある意味キワモノ的存在でしたが、ビジネスに欠かすことのできない乗りものとして40年以上支持されることとなりました。
1980年初頭に起きたホンダ、ヤマハの熾烈なシェア争い、いわゆる「HY戦争」最中の1982年、ホンダが斬新な原付バイクをリリースしました。その名は「ジャイロX」。レゴのようなカクカクしたボディと、フロント1輪・リア2輪という斬新なスリーターモデルで、当時のホンダは「新感覚の乗りもの」と謳いました。
ジャイロシリーズ。もともと個性的なモデルとして登場した。手前がジャイロキャノピー(2024年、松田義人撮影)。
「ジャイロ(GYRO)」とは本来、羅針儀を示すワードですが、ホンダではこの頭文字をとって「G=グレート(偉大な)」「Y=ユアーズ(あなたのもの)」「R=レクレーショナル(娯楽の)」「O=オリジナル(独特の)」といった意味を持たせ、「仕事からレジャーまで優れた多目的性を持つ独特の乗りもの」と位置付けました。
正直、やや難しくも思えるコンセプトですが、しかし、実際のジャイロXは、このコンセプトの通り、その機能性・実用性を証明し、さまざまなバイクユーザーに支持されるようになりました。
コーナリング時には、フロントボディが左右にスイングし、リアの2輪部分は、比較的安定感を保つという独特の乗り味であり、特にぬかるみや雪道などの悪路でもスリップしない特徴がありました。
このバイクなしでは成り立たなかった店もある?また、積載性にも優れており、後には商用車として幅広い場面で採用され、初登場以来、複数回のマイナーチェンジ、フルモデルチェンジを図りつつ今日まで42年間以上にわたり販売される、ホンダの名車の一つにもなりました。

リアフェンダーには「NON SLIP DIFF」とあり、コーナリング時でもリアが比較的揺れないのが特徴(画像:ホンダ)。
ジャイロXが配達シーンで絶大な支持を受けたことから、1985年には派生モデル「ジャイロUP」をリリース。
さらにジャイロUPと並行して、1990年には屋根を搭載した「ジャイロキャノピー」も登場。都市交通環境の変化や、ライフスタイルの変化に伴って宅配・巡回などのビジネスが増えることを見越して開発されたモデルです。
ジャイロキャノピーは屋根付きで天候に左右されずに移動できる利便性がありました。また、荷室の大きなワゴンタイプが存在し、これは宅配ピザチェーンのデリバリー車として多く採用。ドミノ・ピザの日本の本社には、このジャイロキャノピーが展示されており、同社が「ブランドの立役者」として考えていることがよくわかります。
ジャイロUPが2008年に生産終了になって以降も、ジャイロキャノピーは今日まで生産され続け、今日もなお、宅配・巡回などのビジネスに欠かせないモデルとして活躍中です。
電動ジャイロも一般へ主にここまでが、ガソリン車におけるジャイロXおよびジャイロシリーズとも言うべきジャイロUP、ジャイロキャノピーの変遷ですが、さらに2021年には、この機能性を電動バイクに継承したジャイロe:、ジャイロキャノピーe:が登場。
当初はバッテリー充電・リサイクルなどの観点から法人企業向けの販売だったものの、2023年よりバッテリー回収を実施するホンダの電動バイク取り扱いショップで、一般ユーザー向けの販売も始まりました。
他方、特にジャイロXの42年間の歴史の間では、カスタムベース車としても支持が高まり、専門ショップや社外パーツも登場。
特に「角ばっていた」初期モデルをベースに、アメリカンスタイルのカスタム事例が多く登場し、この影響から古い年式のモデルでも「値崩れしない」傾向があるのもまたジャイロXの特徴のように思います。
ジャイロX開発時、今日まで続く「実用ニーズ」「カスタムニーズ」を強く意識していたかどうかはわかりません。
1982年の登場時は斬新で、超個性的な面ばかりに気を取られるユーザーが多かった一方で、実はその斬新性を遥かに超える、優れた機能性・実用性を隠し持っていたのがジャイロXだったように感じます。